酷暑の8月は、歌舞伎座のゆうれい話でひんやりと。坂東巳之助さん・中村児太郎さんが父から引き継ぐ人情喜劇。
文・クロワッサン オンライン編集部
「ゆうれい貸屋」は山本周五郎の小説を原作とした人情喜劇。巳之助さんと児太郎さんは、それぞれの父である坂東三津五郎さん、中村福助さんが2007年に演じた役を初役で勤めます。
巳之助さんの役は、腕は確かだが怠け者の桶職人・弥六。児太郎さんの役は、弥六の目の前に突然現れた美しい芸者の幽霊・染次。染次は女房に逃げられたばかりの弥六を見染め、家に居ついてしまいます。ふたりは恨みを晴らしたい人に幽霊を貸し出す「ゆうれい貸屋」という商売を始め、大繁盛しますが…というのが大まかなストーリー。
巳之助さんと児太郎さんは昨年の納涼歌舞伎の「団子売」で共演。2年連続のタッグに、巳之助さんは「それぞれの父が演じていたお役でできるのはありがたい」。納涼歌舞伎は三津五郎さん(当時は八十助)と中村勘三郎さん(同・勘九郎)が1990年に始めたものであることに触れ、「今回、勘九郎のお兄さんが、前に勘三郎のおじさまが演じたお役で出てくださるのもうれしい。思い出の中の納涼歌舞伎を取り戻していくようです。でも同時に、この演目を初めて観るお客さまにも楽しんでいただけるようないい芝居にしたいと思います」。児太郎さんは「信頼している巳之助お兄さんとまた一緒にできてうれしい。昨年『来年もなにかできたらいいね』とお話をしていましたので」。福助さんが今回の監修をつとめることにも触れ「父は病気をしてから舞台に出るのはなかなか難しくなってしまいましたが、お芝居が大好きですので。きっと『三津五郎お兄さんはああだった、こうだった』といろいろ言うんじゃないかな。ふたりで怒られながら、いいものを作っていきたいです」。
父がつとめた役を演じることについて、巳之助さんは「古典ではないし、特に負うものはないです。昔、父に踊りの稽古をつけてもらったときに『俺はお前みたいに手も足も長くないからこの先はわからない。自分のその身体を使って表現する方法は自分で考えなさい』と言われたことが僕の中に残っていて。親子ですし顔や声が似ていることがあっても違いはあるものなので、優れた部分は取り入れつつ、お客さまに楽しんでいただける芝居ができたら」。
児太郎さんは「父とはどうせ較べられますから。どんなお役でも『父はこうだった』と言われ続けているので、この世界にいる以上仕方ないです。納涼歌舞伎は『楽しかったね、また来たいね』と思っていただけることがいちばん。その憧れの一幕を責任ある立場で持たせていただけることが何よりも嬉しい。父含めて、巳之助さんと皆さまに感謝です」
「八月納涼歌舞伎」は8月4日から25日まで、東京・歌舞伎座で。