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「舟越桂 森へ行く日」彫刻の森美術館(【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

静かに立つ彫像が見つめるもの。

どこか遠くへ視線を投げかけて佇む寡黙な彫像。哲学的なものを漂わせる人物像を作り続け、今年3月に逝去した舟越桂の個展が開かれる。

彼が作る、聖母子像や性別を超えた不思議な雰囲気をまとった彫像はやがて山のような人物像や、長い耳と両性具有の身体を持つ「スフィンクス」へと姿を変える。東日本大震災がきっかけとなって制作された《海にとどく手》は自然の脅威をまざまざと見せつけられた我々が、再び自然との共存を受け入れるための迷いや祈りが含まれたような造形だ。

「遠い目の人がいる。自分の中を見つめているような遠い目をした人がときどきいる。もっとも遠いものとは、自分自身なのかもしれない。世界を知ることとは、自分自身を知ることという一節を思い出す。」(創作メモより)

《樹の⽔の⾳》2019年 西村画廊蔵 Photo: 岡野 圭 (C) Ka tsura Funakoshi Courtesy of Nishimura Gallery
《樹の⽔の⾳》2019年 西村画廊蔵 Photo: 岡野 圭 (C) Ka tsura Funakoshi Courtesy of Nishimura Gallery

展覧会にはこれらの人物像のほか、病室の窓から見える雲がきっかけとなった「立てかけ風景画」も展示される。厚紙の裏に鉛筆で描いた幻想的な絵を舟越は、食事で出されるヨーグルトのカップで作った台に立てかけ眺めていた。

そして27年ぶりに増補新版として刊行される『おもちゃのいいわけ』のための特別展示室も設けられ、往年のおもちゃや新たに本に加わる作品も展示される。絶えず描いていた創作のためのスケッチブックには、創作の源ともいえる無垢な魂が描かれている。

この個展は舟越が生前最後に携わった展覧会になる。

《遠い手のスフィンクス》2006年 高橋龍太郎コレクション Photo: 内田芳孝 (C)Katsura Funakoshi Courtesy of Nishi mura Gallery
《遠い手のスフィンクス》2006年 高橋龍太郎コレクション Photo: 内田芳孝 (C)Katsura Funakoshi Courtesy of Nishi mura Gallery

併せて12月1日まで舟越の父、舟越保武やジャコメッティを含む『彫刻の森美術館 名作コレクション』と、舟越が選んだ三沢厚彦、杉戸洋、名和晃平、三木俊治、保井智貴の作品を紹介する『+舟越桂選』を開催。

舟越桂 森へ行く日
7月26日(金)~11月4日(月・振休)
●彫刻の森美術館
(神奈川県足柄下郡箱根町二ノ平1121)
TEL.0460・82・1161 
9時〜17時 無休
入館料大人2,000円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1109号より

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