俳優生活60年にして映画初主演の平泉成さん「近ごろようやく、人生のひだひだが分かってきましたね。」【今会いたい男】
撮影・天日恵美子 ヘア&メイク・石下谷陽平 文・木俣 冬
「近ごろようやく、人生のひだひだが 分かってきましたね。」
「妻が『クロワッサンさんからお声をかけてもらえるようになったのね、あなた』と喜んでいました。やっとうちの亭主もおしゃれして取材を受けるようになったのかってね(笑)」
平泉成さんはハスキーな声と、ゆったり飄々とした語り口で冗談を言った。あるとき、この話し方をたくさんの人にモノマネされ注目度が拡大したことを、「みんなが宣伝部長になってくれた」と分析した。自身の俳優としてのスタンスは、自然体。
「プロの俳優が上手に演じているように見せるのではなく、ときには素人さん?と間違われるくらいに自然に、どこにでもいるおじさんのようにやれたらいいなと心がけてきました。できるだけ正直に素直に、下品にならないように。テレビドラマだったら、お茶の間の団らんのなかに土足で入るような芝居だけはしたくないですよね」
俳優生活60年にして初主演の映画『明日を綴る写真館』で演じているのは街の写真館を営む職人カメラマン。老練の主人公と悩める若きカメラマンのハートウォーミングなストーリーだ。
「主役には責任が伴うわけだから迷いましたが、僕の好きな、昭和のハートをたくさん感じる脚本を読んで、これならやってみたいと思いました。長いこと生きてきて、人生のひだひだが増えて、ものの見方も変わってきたいまの俺ならできるなと」
カメラの扱いが堂に入っているのは若いときから写真が好きでフィルムカメラを愛用してきたから。撮影中も、共演の佐野晶哉さんと一緒にスマホで写真を撮っていたそうだ。俳優は撮られる仕事だが「僕は撮るほうが自信ありますね」とまた冗談を言う。
「撮られることには自信がないです。僕は撮られてかっこいいという雰囲気じゃないですからねえ。映画やドラマの撮影では近くに常にはるかにかっこいい人がいて。俺の芝居、ひどいなあと思いながらも、主役がよければOKになりますからね。脇の僕が『いまの僕の芝居が気になったので、すみません、もう1回お願いします』なんて決して言えませんよ。そうやって60年――今回、ようやく『もう1回やらせてください』と言ってみました(笑)」
『クロワッサン』1118号より
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