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60代で登山の面白さに目覚めた風吹ジュンさんが語る、山の楽しみ方。

一歩外に出れば、新緑、薫風、日の光。家の中にいるなんてもったいない!
一年でいちばん美しい季節の到来、悩み事や憂鬱な思いはしばし忘れ、深呼吸できる場所に出かけましょう。

撮影・高橋マナミ ヘア&メイク・長井かおり スタイリング・岡本純子 文・嶌 陽子

まだ見ぬ景色を探して。風吹ジュンさん、緑の中へ。

60代で登山の面白さに目覚めた風吹ジュンさんが語る、山の楽しみ方。

「木漏れ日がきれい。木がたくさんあって、森林浴ができて気持ちいい!」

軽やかな足取りで颯爽と公園を歩く風吹ジュンさん。途中で立ち止まり、そう口にした。

「都内にも緑が気持ちいい場所がたくさんありますよね。私も夏に明治神宮の森の中を歩いたりします。木陰が涼しいし、風が抜けてほっとするんです」

風吹さんにとって歩くのは日常のこと。日頃から買い物や映画に行く際も、2駅分くらいは平気で歩くという。

「風を感じながら、なるべく早く歩くように意識しています。あまりにゆっくりだと運動にならないですから」

健脚はこれまでの積み重ねの賜物だ。50代は、大好きな中国茶の産地を訪れるため、年に数回は中国を訪れ、山岳地帯を歩く旅をしていたのだそう。そして60代になってからは、登山の面白さに目覚めた。

「私は中学2年生まで富山で育ったんですが、60歳の時に中学の同窓会に行ったら同級生にプロの登山家がいて、皆で立山を登ろうということになったんです。それで立山連峰の雄山(おやま)に何人かで登ったのが最初。それ以来、いろんな山に登っています」

立山連峰の山々をはじめ、南アルプスの赤岳鉱泉(あかだけこうせん)、東京・青梅市の御岳山(みたけさん)、京都の愛宕山(あたごやま)……。トレーニング用の低山も含め、これまで日本各地の山に登ってきた。5年前には、67歳にして北アルプス最難関といわれる剱岳(つるぎだけ)を登頂! その登山歴は、かなり本格的だ。

「どちらかというと標高の高い山が好き。視界が開けていて、空が近く感じるから。そういう山を、全身を使って登るのが楽しいんです。登っている時は苦しいけれど、途中で突然ふっと体が楽になる瞬間がある。それまですごくしんどかったのが『あ、まだ行ける』って思えるの。登頂して下りてくると達成感を感じて、次もまた登れるって思えますね」

お酒を飲んでうさばらしするより、自然の中に出かけるのが一番!
お酒を飲んでうさばらしするより、自然の中に出かけるのが一番!

元気に山を登るために普段から足腰を鍛えようと、なるべく階段を使うことや歩くことを意識。70代とは思えない溌剌とした魅力の秘訣は、止むことのない挑戦心、そして外でたくさん体を動かすことなのかもしれない。

「考えてみれば、昔から外に出かけるのが好き。お酒を飲んでうさばらしをするより、自然の中に行けばストレスはあっという間に消えていきます」

そんな風吹さんに楽しんで歩くコツを聞いてみたところ、「自分のペースで歩くこと」という答えが返ってきた。

「自分のペースで進んだり休んだりしながら、景色や風を楽しむのが好き。グループでおしゃべりしながらというのはあまり向いていないですね。友人たちと山を登る時も、頂上で待ち合わせることが多いです」

ただし、山で出会った人たちとは仲良くなることがあるという。

「すれ違う人に『どこのコースを登りましたか?』と聞いて情報収集したり、山小屋で情報交換をしたり。おにぎりやおやつを交換することもありますよ。若い人もいるけど、私よりも上の世代も多い。こんなふうにずっと元気でいられたら、と憧れますね」

今も自分のペースで山登りを楽しむ日々。地方ロケに行った際に空き時間で近くの山を登ったり、オフの日に近場の山に出かけたりしているそうだ。

「去年の夏は、全く予期していなかった山に登ったの。行こうと思っていた山の近くに宿をとったつもりが、場所を間違えてしまって。そこから行ける山を新たに探して登ったんです。案内板を見たり、時々すれ違う人に状況を聞いたりしながら歩きました。その時は鹿がいてね。小鹿は好奇心が強いのか、こちらを怖がらないの。時々振り返りながら道を先導してくれて、可愛かったなあ。そんなふうに、偶然の出会いを楽しめるのも山歩きの醍醐味だと思いますね」

どんな山も全部違うから、行きたい山がいくらでもあるの。
どんな山も全部違うから、行きたい山がいくらでもあるの。

これから先もできる限り登山を続けていきたいと話す風吹さん。そう思わせる、山の魅力とは?

「一つとして同じ山はないし、同じ山でもコースや時間帯によって全く印象が違うから、行きたい山はいくらでもあるの。同じ体験はしようと思ってもできない。飽きることがないんです」

さまざまな表情を見せてくれそうな山の世界に、聞けば聞くほど興味が湧いてくる。最後にビギナーにもおすすめの山を聞いてみた。

「青梅の御岳山は景色も変化に富んでいるし、コースも初心者向けから中級者向けまでいろいろあるので楽しめると思います。でも暑い時季だと低山は虫が多いから、夏は標高2000メートル級の高山に行くのがおすすめ。充分な装備や体力は必要ですけど、バスやリフトで上のほうまで行ってそこから歩くと気持ちいいと思いますね。私が最初に登った立山連峰もおすすめ! いろんな景色を楽しめますよ」

生き生きとそう話す姿を見ていると、さっそく外に出かけたくなってきた。風吹さんのように颯爽と、風を感じながら歩けば、きっと気持ちが晴れて活力が湧いてくるはずだ。

風吹ジュンさんの山歩きヒストリー。

60代で登山の面白さに目覚めた風吹ジュンさんが語る、山の楽しみ方。

60代から本格的に登山を始めた風吹さん。北アルプスの立山連峰、南アルプスなど、数々の山に挑戦してきた。「今後は南アルプスの山々をもう少し攻めてみたいと思っています」

60代で登山の面白さに目覚めた風吹ジュンさんが語る、山の楽しみ方。

(A)2019年、日本でも有数の難関といわれる剱岳の登頂に成功した。

(B)雷鳥沢の橋を渡る。「山の中は排気ガスもなく空気がおいしいです」

(C)2018年、立山の雷鳥沢(らいちょうざわ)にて。翌年登ることになる剱岳を指差して。

(D)2015年8月、初めて登った立山連峰の雄山。この頃から登山に夢中。

  • 風吹ジュン

    風吹ジュン さん (ふぶき・じゅん)

    俳優

    1952年、富山県生まれ。1975年に女優デビュー。1991年、『無能の人』で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。映画やTVドラマなど数多くの作品に出演。

ニット3万800円(ル フィル/ル フィル ニュウマン 新宿 TEL.03・6380・1960) パンツ3万8500円(ナゴンスタンス TEL.03・6730・9191) 帽子1万9800円(メゾン ド ソイル/メゾン ド ソイル 恵比寿店 TEL.03・5773・5536) ショルダーバッグ2万8600円(ソフィーディガー/ビショップ TEL.03・5775・3266) シャツ、靴は風吹さん私物

『クロワッサン』1116号より

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

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