くらし

『第8回 横浜トリエンナーレ』横浜美術館ほか【青野尚子のアート散歩】

  • 文・青野尚子

頼りなげな野草のたくましさを学ぶ。

「横浜トリエンナーレ」は3年に一度開かれる現代アートの祭典。2001年に始まった、芸術祭の中でも〝老舗〞的な存在だ。

8回目になる今回は工事休館を経てリニューアルオープンした横浜美術館を中心に、街中の広いエリアで開催される。テーマは「野草:いま、ここで生きてる」。今からおよそ100年前に発表された魯迅の詩集『野草』から着想されたものだ。つくったり、くつろいだりしながら大人も子どもも楽しめるプログラムも用意されている。

参加作家は全部で94組、そのうち32組が日本で初めて紹介される作家たちだ。南アフリカのルンギスワ・グンタは家父長制や植民地主義から生まれた不平等をあぶり出すような作品を作っている。今回は有刺鉄線を使った新作を展示。

ルンギスワ・グンタ《Ntaba manzi》 2022, Courtesy of the artist and Henry Moore Foundation, Photo: Rob Harris

ノルウェーのヨアル・ナンゴは自らのルーツであるサーミ族のことばを用いた作品を制作した。ウクライナのオープングループはロシアのウクライナ侵攻の現状をリアルに伝える作品を日本で初公開している。ストリートカルチャーを参照した作品を制作しているSIDE COREは3つの会場で新作を見せる。

テーマの「野草」は頼りないように見えて、条件の悪いところでも伸びていくたくましさを象徴する。人間ももろくて弱い存在だけれど、さまざまな工夫で苦境を乗り切ることができる強さもある。困難な時代だからこそ求められる力を探すヒントになるかもしれない芸術祭だ。

ヨアル・ナンゴ《GIRJE GUMPI: The Sámi Architecture Library in Jokkmokk》 2018, Photo: Astrid Fadnes

第8回 横浜トリエンナーレ
横浜美術館ほか 開催中~6月9日(日)

横浜美術館(横浜市西区みなとみらい3・4・1)、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKOなど横浜市内各所 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル)
10時~18時(6月6~9日は20時まで)
木曜休(4月4日、5月2日、6月6日は開場) 
「野草:いま、ここで生きてる」 鑑賞券一般2,300円、全会場で使用できる一般フリーパス5,300円ほか

青野尚子 さん (あおの・なおこ)

アート・建築関係のライター

著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1114号より

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

この記事が気に入ったらいいね!&フォローしよう

SHARE

※ 記事中の商品価格は、特に表記がない場合は税込価格です。ただしクロワッサン1043号以前から転載した記事に関しては、本体のみ(税抜き)の価格となります。

人気記事ランキング

  • 最新
  • 週間
  • 月間