家族のコミュニケーションを円滑にする、リビングの家具の配置の見直し方。
その方法論を一級建築士の資格を持つ高原美由紀さんに教わりました。
イラストレーション・市川リョウコ 文・辻さゆり
顔が見える視野60度の内・外に、自分と家族の居場所を作る。
相手の表情や顔色を確認できるのは、視野60度の範囲。ソファに座ってテレビを見ている相手の背後から声をかけても、視界に入らなければアイコンタクトのない会話になってしまう。
コミュニケーションをはかりたいなら60度の範囲に、一人になりたい時は視界からはずれた場所に居場所を作ること。
「でも、共有する時間は大事だから、視界の中に入る場所は絶対に持ってほしい。それにはソファの向きが大事。ソファの向きはテレビの位置で決まります。リビングやダイニングで過ごす人と、キッチンに立つ人ができるだけお互い60度の視界に入るよう、それぞれを配置してほしいですね」
〈話したい時は視野60度内に〉
(配置例)
〈一人になりたい時は視野外へ〉
(配置例)
3.5mの円周上に家族の定位置を配置する。
LDKなどの広い空間に家族がいる場合、「つながりやすい、コミュニケーションをとりやすい」と感じる距離は、3.5m。
家族間の会話がギスギスしていると感じている時や、関係を改善したい時は、この円周上に家族の定位置を作れば、話したい時に話せ、それ以外は好きなことをそれぞれできるといった、つかず離れずの心地よい関係を築くことができる。
「家族関係は距離に比例する言葉の強さも影響してきます。それ以上離れると、同じことを話しかけても、距離が遠いので大声になり、言葉尻が強くなってしまうんです」
(配置例)
みんなで座るソファは卒業。 これからは1人掛けのチェアがフィット。
「夫がソファに寝転ぶから、自分の座る場所がないという妻もいれば、逆に妻と子どもの仲が良く、帰宅が遅いと居場所がなくてダイニングに座っているという夫もいます。それなら、家族それぞれのチェアがあったほうがいい」
子どもが小さい頃は重宝した大きなソファも、ある程度の年齢になれば卒業し、家族それぞれが1人掛けのチェアを持つようにすれば、パーソナルスペースが確保できて居場所が作れる。
「居場所は物理的なことだけでなく、心理的なものも含みます。ここが自分の場所だと思える居心地のよさがあるかどうかが大切です」
(配置例)
過ごし方も家事動線も決まるから、定期的に見直したい家具の配置。
「家具の配置を換えると、まず体の向きと座る位置が変わります。それによって、家族間のコミュニケーションに大きく影響するんです」
そう話すのは、一級建築士の資格を持つ高原美由紀さん。心理学、脳科学、行動科学、生態学といった科学的根拠を持った「空間デザイン心理学」を体系化し、空間デザイン心理学協会の代表理事も務めている。
これまで多くの家族から新築やリフォームの相談を受け、大がかりなリフォームをしなくても、家具の配置を換えるようアドバイスするだけで家族関係が良くなり、悩みが解決するという経験をしてきた。
「答えは全部家の中にあります。相談者の特性を見極め、家具の位置を変えて適切な居場所を作ってあげると喧嘩がおさまり、離婚をやめた夫婦はこの数年で5組くらいいます」
第2の人生を迎えようとする女性たちへのアドバイスは、「自分専用の椅子を1脚持つこと」だ。
「夫との会話を増やしたいと思えば、彼の視界に入る場所に椅子を置き、逆に一人になりたい時は家族に背を向ける位置に置く。これからの暮らしを考えたい時は、椅子は窓に向けて置けば、未来を明るい気持ちで考えられます。50代からは、家事や子育てから解放され、ありのままに生きられる素晴らしい時期。まず、自分がどうしたいか、どんな暮らしをしたいかを見つめ直し、部屋のどこが最も居心地がよいか改めて感じてみることが大切です」
[配置換えの基本ステップ]
1.理想の暮らしを想像する。
自分がこれからどんな暮らしをしたいか、改めて考え想像してみる。
2.家の中を歩きまわって、居心地のよい場所、悪い場所にをつける。
実際に家の中を歩いてみて、居心地のよさを「見える化」してみる。
3.居心地のよい理由、悪い理由を考える。
○×の理由を明確にし、○を増やして×を減らす方法を考える。
Before
↓
After
『クロワッサン』1112号より
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