遠距離介護の限界を感じてアイスランドへ移住【助け合って。介護のある日常】
撮影・滝川一真 構成&文・殿井悠子
「見守ることしかできない距離の壁、会うと届いた、行動に繋がる思い。」滝川シグルンさん・滝川一真さん
アイスランド国籍のシグルンさんと滝川一真さんは、2017年に結婚した。デンマークで出会った2人は結婚後、日本で暮らし、今アイスランドに住んでいる。
「アイスランドで暮らすことを決めたのは、日本に来て4年半が経った頃。仕事の環境がようやく整ったタイミングでしたので、後ろ髪を引かれる思いでした。でも、子どもがまだ小さかったし、自分だけが日本に残る選択肢はありませんでした」
と滝川さん。妻のシグルンさんがアイスランドへ帰ることを決めたのは、両親の介護が理由だった。
シグルンさんの母トラさんは、2010年からアルツハイマー型と脳血管性認知症の混合型になっていた。
看護師であるシグルンさんは早くからその変化に気づいていたが、緩やかに進行していたので、積極的に何かをすることはなく様子を見ていた。
2013年、シグルンさんは仕事でデンマークへ。母親の日々の介護は、父のバルドゥルさんが看ていた。ごはんを作らなくなったり、約束を忘れたり。その後、トラさんは段々と短期記憶障害が増えていった。
そして、トラさんの症状が悪化するにつれてバルドゥルさんの心労は増し、バルドゥルさんのお酒を飲む量が増えていった。遠くても、毎日のように電話をしていたシグルンさんだが、父親の変化には気づけなかった。
ある時、酔っ払ったバルドゥルさんが夜中に転倒。目の周りが青白く内出血した状態でシグルンさんとのビデオ電話に出た。シグルンさんはパニックになって「病院に行って!」と何度も頼んだが、バルドゥルさんは行く気配がない。3階のアパートに住んでいた両親は、足腰も悪くなり階段がつらかったので、必要最低限でしか外出しなくなっていた。
「その時、口で言うんじゃなく、連れて行く必要があると感じました。父のお酒も、会えば匂いで気づけたはず。近くに住む兄や姉に様子を見に行ってと頼んでいましたが、みんな自分のことで忙しく、なかなかすぐには動いてくれなかったんです」
見守りはできても介入ができない。ジレンマが募るシグルンさん。コロナ禍で一気に体調が悪くなった両親の様子を見て、帰国を決めた。
そばにいて、できるようになったことはたくさんある。頻繁に両親に会いに行き、料理や掃除の手伝いをしたり、孫の顔を見せたり。何より、ビデオ電話で話すよりも互いの思いを伝えやすくなった。
「両親の元に兄妹で集まり、自分たちはチームなんだという話をしました。だから、もう少し積極的に状況を改善するための行動をしてほしい、そう両親や兄姉にお願いしたのは効果的でした」
ようやく、シグルンさんの心が少し軽くなった。(続く)
『クロワッサン』1100号より