【演目:二人旅】トラブルもなくのんきに続く、旅ののんびり感を味わえる噺。│ 柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
【演目】二人旅(ににんたび)
あらすじ
仲の良い江戸っ子二人が旅に出る。口は達者だが旅慣れないので足にマメができたりしてなかなか道が捗らない。気を紛らわすために景色を見たり、謎掛けをしたり、都々逸を歌ったり。そのうちに腹が減ったと一軒の茶店に入る。店番のお婆さんがとぼけた人で、出してくる酒もつまみも何とも怪しげなものだが、飄々として悪びれる様子もない。のんきな旅はまだまだ続いてゆく…。
〝旅は憂いものつらいもの〞なんて昔は言われたんだそうです。確かに乗り物もなく、さまざまなリスクも現代より多かったという時代、まさに命がけだったとか。
旅を扱った落語にも、道中でとんでもないトラブルに巻き込まれるものが少なくありません。「宿屋の仇討」なんて、題名からして物騒だし、「小間物屋政談」「抜け雀」など、波瀾の物語は数多いのです。
そこへゆくとこの「二人旅」という噺はまことに穏やか。何か大事件が起こるわけでもなく、爆笑する場面があるわけでもないのどかな物語です。
楽しく演じられるためには落語家に確かな腕が必要なのはもちろん、のんびりした雰囲気に身を委ねてくれるお客さまの成熟度も大事です。
けれども旅は想定外のことが何ひとつ起こらず、予定どおり…では物足りないのも確か。思わぬハプニングものちによい思い出となりますよね。昨今は旅行支援などもあって出かけるかたも多いようで。
楽しい旅行に一度ではなくたびたび(旅旅)行きたいものですね。
『クロワッサン』1090号より