『ポンコツ一家』著者、にしおかすみこさんインタビュー。「毎日気にかけてくれて。母はずっと母です」
撮影・三東サイ 文・合川翔子(編集部)
「毎日気にかけてくれて。母はずっと母です」
〈母、80歳、認知症。姉、47歳、ダウン症。父、81歳、酔っ払い。ついでに私は元SM女王様キャラの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。全員ポンコツである〉。
母の認知症を機に、家族と同居を始めたにしおかすみこさんは、母の介護や家族のケアで目まぐるしい日々を、文字にしたためようと決意した。そして上梓した本書は、この衝撃的な書き出しで始まる。
「その日起こったことをメモに取り、1年後くらいに振り返って書きました。次々にいろんなことが押し寄せるので、自分の中ではひとつも整理できていなくて。当時のできごとに言葉を当ててみて、しっくりこないな、本当はこう思っていたのか、と過去の自分の気持ちに出合い直す、そんな程度です」
ゴミ屋敷と化した実家を片づけたり、家族のお金を管理し、母に「ドロボー!」と言われたり、姉の排泄物を処理したりすることもある。壮絶な描写の連続だ。
それでも、その様子をにしおかさんは、「母が怒り出す」とは記すが、「母に怒られた」という言葉は使わない。そこに被害者意識はない。だから、だれも悪者にしない。にしおかさんの視点で選び取られた言葉たちは、泥臭く過酷な状況にあって、温かく、笑いさえ誘う。
「母の介護は、自分が元気でいられる範囲のことをしています。最初は何に疲れているかさえわからずヘトヘトでした。今は、自分を大事にすることを意識しています」
ウォーキングやヨガに耽り、無心になる。自分の時間を作り、ほかに皺寄せがいったとしても、しょうがないと腹をくくる。介護は、際限がなく、答えがないからこそ、全部はやらない、追い込まない。
母の症状が進む中で、変わらないこともある。
母の徘徊が始まった時、靴を履く目線に花があれば、足を止めてくれるかも、と玄関に花を飾る場面がある。今も花を絶やすことなく、にしおかさんが毎日水を替え、花好きな母が枯れ葉を取って生ける、親子の連携プレーが続いている。
「最近は、私が花をスマホで撮影していて。母も一緒になって写真を撮り、姉も続いて…と撮影大会。母は『もうちょっと左』『もっと寄って』と。素人カメラマンが指示を出してきます」
忙しなく感情を揺らす日々のなかにも、心凪ぐひとときがある。
母は何を知っていて、何を覚えていて、何を忘れていくのかーー。母の忘れる速度が早くなるようで、現実から目を背けたくなる時がある。それでも、変わらないことも。
「出掛けに『雪が降って寒いよ。手袋や帽子をしていきなさい』と気にかけてくれます。厚着をし、外に出ると、ゲッ、晴れてる〜って、母トラップに引っかかった〜ってなります(笑)。私が寄り添うというより、母が私に寄り添ってくれている感じで。母はずっと母でいてくれます」
にしおかさんは本書を「家族への愚痴」と言い、家族を「ポンコツ」と毒づくが、行間に滲む家族への想いに共感せずにはいられない。
『クロワッサン』1091号より
広告