「今日も“うらにし”ですねえ」
京都といえば華やかな古都のイメージだが、ここは京都府北部、日本海に面したのどかな丹後地方。
訪れた先で、地元の人たちが口々につぶやいた“うらにし”とは、界隈特有の変わりやすい天気のこと。勢いよく雨が降っているかと思えば次の瞬間には晴れ間が差し込み、やがて雲に覆われまた晴れて……。
秋冬に大陸から吹く南西風による移り気な気候が、良質な水と適度な湿度をもたらし、この土地の豊かな食材と文化を育んでいる。
日本書紀に記されるほど歴史が深く、江戸時代以降は日本最大の絹織物「丹後ちりめん」の産地として栄えた京丹後。湿気を含んだ空気が、乾燥すると切れやすい絹糸に優しく、海産物や醸造産業の発展を支えてきた。
北前船の港町として北海道の昆布のほか各地の産物の取引で賑わったこの土地は、京都の名料亭『和久傳(わくでん)』発祥の地でもある。
冬は蟹、鰤など海の幸がとりわけ美味。四季の風景と食材に魅かれて移住してきた料理人や作り手も多く、彼らの幸せそうな笑顔にも心癒やされる。