『文にあたる』著者、牟田都子さんインタビュー。「著者の文体を生かすことが最も大事です」
撮影・中村ナリコ 文・遠藤 薫(編集部)
「著者の文体を生かすことが最も大事です」
牟田都子さんは校正者。本になる前のゲラ(本と同じ体裁で印刷された原稿)を読み、誤字脱字衍字(不要な文字が入ること)の有無、史実やデータの正誤を調べる仕事だ。
牟田さんの目を経て世に出た本は熱い支持を受けることが多い。いくつも版を重ね、著者のトークイベントも盛況だ。そして牟田さんも時には著者と一緒に、時には単独でイベントに登壇する。TVの密着取材も受ける、校正界のポップスターなのだ。
初の単著となる本作では、校正にまつわる様々な逸話を交え、言葉との向き合いかた、資料に向き合う気持ちをつづる。パンダのしっぽは白だと、知ってました?
1冊の本にかける時間は1週間から10日、全部で3回通読する。
「単純に文字だけ見て1回、事実関係を調べながら2回め、そして最後にもういちど読みます」
自身の〈鉛筆を入れる(=校正する)〉仕事について、牟田さんが決めていることがある。誤植や事実関係の確認は大前提だが、
「できるだけゲラに鉛筆を入れないこと。表記のブレも著者には理由があることがあります。なるべくその人にチューニングして文体を生かしたい。さわりすぎないように校正したいんです」
著者に“チューニング”するために、ゲラを読む前にはできるだけ前作やインタビューを読んでおく。著者の語彙や息づかいを自分の中に通したのち、向き合う。
〈著者はもっと自分の言葉に頑固であっていい。譲らなくていい〉その姿勢が著者や編集者からの大きな信頼を集めている。
100%満足したことはいちどもありません。
今も、新しいゲラが届くとまず「終わるかな?と思う」と笑う。
「本はオーダーメイドなので、一冊一冊違う。前と同じ著者・編集者の組み合わせであっても、同じ本はないし、難易度も違います。仕事が来るたび毎回、『今度こそはもっといい校正をしたい』と思うわけです。時間の余裕をもって、資料も全部集めて……って」
今回は100%できた! みたいなことがありますか?
「全然思わない。本当にぜんっぜんない。いつも張り切って始めるけど、たいていうなだれて終わります(笑)」
〈個人で担当した本に名前を載せたいといわれたときは即答できませんでした。(中略)何か見落として名指されることは怖かった。一方で、怖さを引き受けることも仕事の一環ではないかとも思いました〉
幼少からの読書好き。この仕事に就いてますます本の魅力にとりつかれてやまない。
「一冊の本を調べものをしながら何日もかけて熟読することは、ものすごく面白いと知りました」
作品世界だけでなく、本を作ることの面白さも知った。著者や装丁、売るまでも含めて読者の手に渡すまでの営みに惹かれる。
「本のある世界って面白いなって。それを伝えられたらいいですね」
『クロワッサン』1078号より