くらし

『うえから京都』著者、篠 友子さんインタビュー。「計画どおり2カ月で書き上げました」

  • 文・中條裕子 撮影・青木和義(篠 友子さん)

「計画どおり2カ月で書き上げました」

内澤旬子さん

うえから京都――このフレーズが降りてきたのが、小説が世に生まれるきっかけとなった。

「ここ5年くらい映画を作りたい一心で、こんな物語あったらおもしろいよねっていうタイトルが思い浮かぶと、パソコンのフォルダに入れていて。そこからどれを選ぶかというとき、コロナもあって深刻なものは書きたくなかった」

篠友子さんは、映画の宣伝が本職。これまで100本以上の邦画の宣伝を手掛けてきて、あの大ヒット作が頭にあったのだという。

「『翔んで埼玉』という映画が出たときに、埼玉でこんなにウケるなら京都で関西ネタだったら!?と思ったんです。京都に大阪と兵庫、そこに滋賀と奈良を足したら? 2000万人はいるな、と。その0.1%が劇場に来たとしてもけっこうな数だし、これはひょっとしたらひょっとするかもな〜なんて」

そう語るとおり、物語の主な舞台は京阪神だ。政治の現状に強い危機感を抱いた京都府知事が、首都分散を画策。関西3府県が手を組み初めてなし得ると考え、まずは大阪と兵庫を構想に巻き込むことから話が始まる。ここで関西事情に通じている方であれば、ピンとくるはず。京都と大阪、この2都市が手を携える、という意味を。

思わずクスリとさせられる、関西ならではのあるあるネタ。

「私は高知出身で、大学時代から9年ほど京都に住んでいて。当時から不思議に思ってたんですね。京都と大阪はなんでこんなに対立してんのかな、と」

そんな2都市と兵庫との間を結ぶための交渉人として、京都府知事が呼び寄せたのが、主人公・坂本龍子。彼女は高知県庁職員でありながら、政治の世界で数々の難問を解決してきた、若手ながらやり手の「交渉人」である。

龍子は兵庫や大阪の知事に働きかけ、京都との仲を取り持ち、日本を変えるために奮闘する。その交渉手腕もさることながら、諸所にちりばめられた関西あるあるネタが何とも秀逸。思わずクスリとさせられる。

その一つが、滋賀県人が口にする「琵琶湖の水止めたろか」。近畿の水がめ、琵琶湖の水源がなければあんたらどーにもならんでしょ?という、京都人への腹立ちを表現するのに使われる言葉だが。

「この小説を書くにあたり『琵琶湖の水を止める』のがどういうことか調べてみたんです。で、実際水止めたら滋賀が沈むっていうので、調べてて笑ってしまいました」

と、語りながらも楽しそうな笑顔の篠さん。本を書くにあたり考えていたのは、おもしろいか、おもしろくないか。それが何より大事だった。

もはやネタとも言える京阪神と滋賀、奈良を巡る恩讐。それを龍子がどう切り崩していくのか? そして、歴史に残る大仕事“令和維新”の行方はいかに? 

初めて挑んだ小説だったが、担当した編集者に「純粋に続きが読みたかったから共に取り組んだ」と言わしめたこの一冊。“おもしろい”の5ワードで、今の日本を元気にしてくれることを願ってやまない。

県庁職員ながら政治の世界で交渉人として名を馳せる坂本龍子が、日本の未来を見つめ奮闘する新感覚なエンタメ小説。 角川春樹事務所 1,870円
篠 友子

篠 友子 さん (しの・ともこ)

1960年、高知県生まれ。27歳で起業し、アウトソース事業、媒体事業を経て、2012年MUSA設立。映画やドラマの宣伝、イベントPRを主軸とする事業を展開してきた。本作で小説家としてデビュー。

『クロワッサン』1080号より

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