清潔で乾いていて、広すぎない。用と美を兼ね備えたホルトハウス房子さんの台所の秘密。
撮影・ローラン麻奈 文・辻さゆり
徹底的に清潔で、居心地のよい場所。
鎌倉で料理教室を開いているホルトハウス房子さんの台所は、日当たりのよい南向き。窓からは一面に広がる雑木林の向こう側に青い海も見える。
「一日のほとんどの時間を台所で過ごすから、眺めがいい台所にしたかったの。明るいのがいいわよね」
ホルトハウスさんは、結婚してからこの家に落ち着くまで、夫の仕事の関係でアメリカやタイ、台湾など各地で引っ越しを繰り返してきた。この台所はこれまでの体験を踏まえ、ホルトハウスさん自身が機能性や使いやすさを考えて建築家と共に作り上げた、いわば集大成ともいえる空間だ。中でもこだわったのは「広すぎない」こと。
「台所の真ん中に立って両手を広げてすぐ、流しやコンロ、調理台に手が届くくらいの広さ。そのくらいがちょうどいい。広すぎると疲れてしまうでしょう?」
棚など手が触れる箇所に厚みのある木を使っているのが印象的。
「金属製の扉は開ける時に音がするし、触ると冷たくて硬い。木は温かみがあるし落ち着きます」
流しや調理台の高さは、アメリカ製「バイキング」のオーブン付きガスレンジに合わせている。写真では少しわかりにくいが、天板となるステンレスは一枚ものが使われ、全く継ぎ目がない。高さが均一だからこそできることだ。
「汚れや水分が継ぎ目に入る心配がなくて、スーッときれいに拭き取れる。台所は口に入れるものを作るところだから、とにかく清潔でなくては」
「台所は乾いていて清潔でなくてはならない」とは、ホルトハウスさんが常常口にする言葉。長年使い込んでいるにもかかわらず、コンロもシンクも常にぴかぴかに磨かれている。
「きれいにするのが長持ちさせるコツ。そしてシンクがきれいなのは当たり前のこと。『あなた、顔を磨くよりも流しを磨きなさい』って、料理教室に来る生徒さんたちにはいつも言っています」
ホルトハウスさんが初めてアメリカに行った1960年代、日本の台所は北側の日が当たらない暗い場所に置かれていることが多かった。
「だからアメリカに行って、台所が白一色で明るいことに驚きました。さらにびっくりしたのは、気軽に人を入れるところ。その頃、日本では台所は家族以外の人を入れるところではなかった。ところがアメリカでは『どうぞ』と招き入れられ、そこでコーヒーを飲んだりおしゃべりしたり。ちょっとした応接間のような感じがしたのね。それがとても新鮮でした。台所は居心地のよい場所であってほしい。日差しが入って清潔で、好きなものしか置かない場所。狭くたっていいのよ」