LiLiCoさんが心がけている、他人との付き合い方。
撮影・青木和義 文・一澤ひらり
“全身全霊を相手に傾ける。まさに惚れるっていう感覚ね。”
心地よい夏晴れの高原のように、カラッと明るい笑顔と元気なトークで楽しませてくれるLiLiCoさん。日本人の母とスウェーデン人の父との間に生まれたが、18歳でアイドル歌手を目指して来日するまで、日本語はまったく話せなかったという。
「『私の名前はリリコです』とか、『お腹空いた』とか、生きるための日本語を最初に覚えたんです。しかも歌手としてはまったく売れなくて、5年間はマネージャーと車中生活をしていたの。『それってホームレスだよ』と人に言われて、初めて自覚しました(笑)」
転機の訪れは31歳になる直前、情報番組『王様のブランチ』(TBS系)の映画コメンテーターになってから。物怖じしないインタビューで人気者に。
「その頃の私は日本語に敬語というものがあることを知らなかったんです。ある日、『この俳優さんには敬語でお願いします』ってディレクターに言われて、『何、それ?』って。『です、ます、を付けて話して』と言われたけど、インタビュー5分前よ。とりあえず丁寧に話してみたけど、結局タメ口になっちゃった。このショックは大きかった」
敬語を知らなかったことを仲間にも謝ったが、「リリコはそのままタメ口でいい!」と逆に励まされた。とはいえ、その後2年かけて敬語を「獲得」した。
「インタビューするときは男女の関係なく、相手に恋をするみたいな気持ちで臨みます。これってとても大事で、聞きたいことがどんどん湧いてくるんです。共感して気持ちが寄り添い合うと、相手とのキャッチボールが始まって楽しくなるんですよね。ファッションのTPOも相手に応じて考えます。たとえばクリント・イーストウッドにインタビューするなら礼儀正しいスーツですけど、日本の新人俳優だと緊張させちゃうから、カジュアルなデニムとかでラフに話せる雰囲気にしますね」
ラテン系と思われるくらい、どうしていつも楽しそうにしていられるのと、よく聞かれるというLiLiCoさん。むしろ周囲を見ていて不思議に思うのは、多くの日本人が他人の幸せそうなところだけを見て羨ましがったり、すぐ人と自分を比較したがること。
「そのせいか、世界有数の先進国なのに幸福度は低いでしょ。でも上辺だけでは本当のところはわからない。私はスウェーデンではハーフということでいじめられたし、母親との軋轢もありました。どんな人もコンプレックスや悩みを抱えていますよね。どれだけその人の深いところに降りていって話ができるか。心の琴線に触れて、ちゃんと話ができればと思っています」
LiLiCoさんは、2017年に歌謡グループ「純烈」のメンバーで俳優の小田井涼平さんと結婚。一番心惹かれたのは小田井さんが誰とでもフランクに話のできる人だったからだそう。
「コミュニケーション力って、一緒にいて心が安らぐとか、そういう空気感を醸し出すことも肝心だと思いますね。結婚してからすごく実感しています」
〜ここが素敵なんです。〜
●小田井涼平さん(LiLiCoさんの夫)
うちの奥さんは、たとえばハリウッドスターのインタビューをするときに、過去の作品を観た上で、その人のバックボーンや配偶者はもちろんのこと、子どもの好きなおもちゃまで調べている。だから、わずかに与えられたインタビュー時間であっても実り豊かなコミュニケーションができるんです。それを面倒くさがらずにできるか、できないか。そこにコミュニケーション力の差が出てくると思います。彼女はうちの両親とも連絡をよく取っていて、僕よりも実家のことをわかってくれています。もうね、心を掴むのが上手です。しかも掴んだら、心地よくもみほぐしてくれるんですよね。
●松川えまさん(LiLiCoさんの友人)
彼女は動物的というか、感覚的というか、国籍や人種や言葉を超えてコミュニケーションができる人ですね。コロナ禍以前のハロウィンの時に、仲間10人でボウリングのピンの格好をして、道ゆく人たちにボールを投げてもらったんです。LiLiCoさんは見事に倒れて「ハッピーハロウィン!」ってうれしそうに叫んで、大盛り上がりでした。あと、多忙なのによくホームパーティを開いてくれて。見えない妖精が10人ぐらい働いているとしか思えないほど、食事を作りながら、飲みながら、話しながら、パーフェクトにもてなしてくれる。25年来の友人ですけど、彼女は私の心の栄養ですね。
『クロワッサン』1050号より