くらし

心理学が考える「欲」との付き合い方と心のトレーニング。

  • イラストレーション・植松しんこ 文・板倉みきこ

心のトレーニングをやってみよう

ワークス1をやり続けるだけでも、心の変化は充分感じられる。
焦らず、少しずつ実践できるワークを増やしていこう。

[ワークス1]些細なストレスの種を書き出してみる。

刺激、出来事、変化など、日々降りかかってくるストレスの種(ストレッサー)。新型コロナウイルスや将来の不安など、誰にとってもストレスとなるものではなく、些細なストレッサーに気づくのが大事。
どんなことをストレスに感じるかは千差万別。職場の微妙に気が合わない人、隣の家の騒音、夫の脱ぎっ放しの靴下、LINEの返信、眠りが浅いなどでいいので、すべてノートに書き出そう。
私はこれに引っかかっているんだ、と気づくことに意味や効果があり、細かく分析をする必要はない。
日によってストレッサーは変わることがあるので、自分の心を日々観察し、ストレス日記をつけて。日記に慣れたら、ストレッサーによって生じる、心身の変化や反応(ストレス反応)にも気づきを向けてみよう。

[ワークス2]自分の苦しさを認めて受け入れる。

「私は苦しい!」 「つらくてたまらない!」 「どうしていいかわからない!」 「どうなってもいい!」 「いい加減にして!」 など、生々しい感情、心の叫びを封印せず、言葉に出してみよう。書くということは心理的なケア効果があるので、大きな紙に感情の赴くまま書きなぐるといい。
また、環境が許すなら実際に声を出して叫ぶのも効果的。そしてその感情が自分を落ち込ませたり、苦しめているなら、もう一人の自分をイメージして、彼女に苦しさを訴えてみよう。
この時、もう一人の自分に「そんな考えはおかしい」などと反論させる必要はなく、ただひたすら聞いて、認め、受け止めてあげること。負の感情を抱くことに罪悪感を持つ必要はない、ということを自分に気づかせて。

[ワークス3]自分を縛る“呪いの言葉”に気づく。

自分を生きづらくさせているものに、幼少の頃から染みついたマイルール、価値観がある。それを伊藤さんは”呪いの言葉”と命名。
「もっとしっかりしなければ」 「頑張りが足りない」 「大事なところでいつも失敗する」 「感情的になってはいけない」 「自分は無能だ」 「人に迷惑をかけてはいけない」など、つらくなった時に出てくるセリフが呪いの言葉だ。
でも、これらの言葉は自分が生んだものではなく、この世の真実でもなく、私たちの中に植えつけられた”思い”にすぎない。呪いの言葉は普段の生活でしょっちゅう頭に浮かび、ストレス反応をもたらしたり、自分を大事にしない行動を取らせている。つらい時に浮かぶ、自分にとっての”呪いの言葉”は何かを見つけてみよう。

[ワークス4]不要なストレス、感情を捨てていく。

自分の気分、感情を溜めていくとパンクしてしまうので、不要なものはどんどん捨てていきたい。
イメージワークのようなものはいろいろあるが、伊藤さんのクライアントからやりやすいと評判の高かったものを2つ紹介。
ひとつは、大きな壺に流し込むワーク。自分の体の半分ほどの大きさの壺をイメージして、いつも自分の傍に置いておく。悲しみや怒り、イライラなどの感情がワーッと生じたら、それらを壺にドボドボと注ぎ込むイメージ。
もうひとつは、うんこのワーク。嫌な気分や感情を”うんこ”とみなし、トイレにジャーッと流してもらうというイメージをする。特に大きなストレッサーに見舞われて、気分や感情がとめどなく次々と生じる時は、勢いよく流してくれるトイレが、強い味方になってくれる。

[ワークス5] “希望の言葉”を持ち歩く。

”呪いの言葉”に対抗するため、その言葉に反論してみよう。
例えば「いつも失敗ばかり」という言葉に「失敗ばかりは言いすぎ、誰だって失敗することはある」とか、「自分さえ我慢すれば物事はうまくいく」なら「自分だけ我慢するのは不公平だ」といった具合。
反論を続けていると、呪いの言葉に持っていかれそうになる自分を救い出す、効果的な言葉が見つかる。
例えば「私には幸せに生きる権利がある」 「もっとのびのび生きていこう」 「完璧を目指すのはやめよう」などなど。
これらは”希望の言葉”。きれいなカードを用意してそこに丁寧に書き留め、常に持ち歩こう。”呪いの言葉”が出そうになった瞬間、”希望の言葉”を取り出して、声に出して言ってみると心が落ち着いてくる。

[ワークス6]自分の感情を擬人化してケアする。

自分の中には、いつまでも子ども的な存在、内なるチャイルドがいる。感情を擬人化した状態がチャイルドともいえる。
まずはその子に名前をつけよう。どういう名前をつけてもらいたがっているか想像しながら決める。次に、その名前を声に出して、子どもに話しかけるように呼んでみる。何も反応がなくても気にせず、折に触れ呼びかけ、日々話しかけていこう。そのうちチャイルドがリアルに応答してくれる。
すると、内なるチャイルドを心身で感じとれるので、何か行動を起こす時は「どうしてほしい?」と聞いてから進めるといい。また、チャイルドが傷ついていたら、慰め、ケアすることが自分自身のケアにもつながる。”希望の言葉”をチャイルドに投げかけることも効果的。

伊藤絵美 さん (いとう・えみ)

公認心理師

臨床心理士、精神保健福祉士。近著は『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』(晶文社)。

『クロワッサン』1036号より

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