【歌人・木下龍也の短歌組手】秀逸な擬人法を使った短歌。
第41回全国短歌大会大会賞を受賞して以降、精力的に活動を続ける歌人・木下龍也さんが読者の短歌にコメントをする連載『短歌組手』。毎週金曜日夜に更新をしていきます。短歌の応募もぜひお願いします。
〈読者の短歌〉
化粧した亜里沙はとても可愛くて 今日はあなたがいなくてよかった
(椎名小晴/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
優香でもなく香里奈でもなく「亜里沙」という名前の選択は、ある特定の顔が浮かびそうで浮かばない、知り合いにひとりはいそうでいない、いい塩梅の余白として機能し、読者をこの短歌の情景に入り込みやすくさせていますね。(全国の「亜里沙」さま、並びにご関係者のみなさま、大変失礼いたしました。)
〈読者の短歌〉
エンドロール最後まで観るこのひとは家に帰って彼女を殴る
「エンドロールを最後まで観たのがきっかけで付き合いはじめたという人たちをたまに見かけるのですが、「?」と思ってしまいます。当人たちが幸せならばなんでもいいのですが。」
(みてか/女性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
ある一面を見ただけではそれがどんな立体であるか正確にはわからない。特に人間という多面体は意識的に、あるいは無意識的に見せる面を変えるから「エンドロールを最後まで観る」と「彼女を殴る」がひとつの立体を構成する別々の面であってもなんら不思議ではない。不思議ではないと理解しているはずなのだが、このように展開図を見せられると絶望し、ぞっとする。
〈読者の短歌〉
パトラッシュもう疲れたよ眠いんだレッドブルとか効かないやつだ
(岡本雄矢/男性/自由詠)
〈木下さんのコメント〉
死が翼を授ける。
木下龍也
1988年、山口県生まれ。2011年から短歌をつくり始め、様々な場所で発表をする。著書に『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』がある。
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