娯楽スパイ映画シリーズながら、増村保造が撮った第1作はとことん硬派。集められたエリートたちは最初、スパイなんて嫌だと反撥するものの、そのたびに加東大介が熱弁をふるって説得します。「このままではくだらん政治家や将軍どもがアジア全体を敵に回し日本を滅ぼしてしまう」という意見に全員が賛同。スパイとしての運命を受け入れていくものの、和を乱した仲間に自殺を強要するなど、志の高いエリート集団特有の粛清傾向には、なんだか嫌な予感が。
それにしても次郎、スパイの大義に目覚めてからは老母と婚約者を一顧だにしなくなるとは、本当に冷たい男です。たった1年の養成期間でここまで冷酷非情に作り変えられていくのが事実だとすると、これは怖い。大義に目覚めた男の狂気に付け入る隙なし。
仲間とともに壮大な正義に熱中する青年たちとは対照的に、次郎への愛という、自分の中の正義を一人で貫くのが、婚約者の雪子。自我のある女の暴走を愛する増村美学の結晶のような雪子を、小川真由美が演じています。体温を感じない、シリアスであだっぽいその美貌は、硬質なモノクロ映像&スパイというぶっ飛んだ世界観と完璧にフュージョン。次郎もいいけど、むしろ英国スパイ雪子の物語をシリーズ化してほしかった!