落語における“外的要因”をご説明。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
とっても基本的なことですが、落語はお客さまの前で落語家がしゃべり始めないと物語の世界は生まれてきません。野球がピッチャーの第一球がなければ試合が始まらないのと同じです。
けれど一度物語の世界が出現すると、あとは聞いているお客さまのもの。百人のかたが聞いていれば百とおりの想像の世界が、ときに演者自身が頭の中に描くイメージをはるかに超えたスケールで広がっているんです。
でもときとして、外的要因でその想像に水を差されることはあります。
近年多いのは携帯電話の着信音ですね。これは興ざめなものだと当連載でも取り上げたことがあります。他に頻度は高くないものの、会場の外での音に影響を受けるなんて場合もあります。
とある能楽堂での落語会の出来事。「宮戸川」という、夜中の雷雨がもとで若い男女が結ばれるという色っぽいながらもドタバタ劇な噺を演じていました。
外は夕立ちで、雷鳴も時々聞こえる……というのは建物の構造が一般の住宅とほぼ同じで、防音されていないからです。噺のヤマ場で「ひときわ大きな雷鳴がカリカリピシー!」というのと同時に、本物の稲光とゴロゴロドシーンという雷鳴。
あまりのタイミングのよさに、お客席から“おおっ”というどよめきと拍手が。こういうハプニングは楽しいものですね。でも実を言いますと、高座にあがる前にすでに激しい雨だったので、ことによったらドンピシャの間で雷が鳴るかな? と、内心期待してこの噺を演じようと決めていたんです。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1028号より
広告