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【歌人・木下龍也の短歌組手】終わりのことを考えて寂しさが襲う。

第41回全国短歌大会大会賞を受賞して以降、精力的に活動を続ける歌人・木下龍也さんが読者の短歌にコメントをする連載『短歌組手』。今までに集まった短歌へのコメントは今回が最後です。たくさんのご応募ありがとうございました。
机に向かう木下さん。
机に向かう木下さん。

〈読者の短歌〉
好きそう、とあなたが買ってきてくれるパンことごとくわんぱくなパン
(toron*/女性/テーマ「パン」)

〈木下さんのコメント〉
自分がどう思われているのか。それが「パン」から見えてくるところがおもしろい。
下句の言葉の配置、リズムも非常に巧みな1首。

〈読者の短歌〉
メンチカツバーガーにある数本の線キャベツから頂くビタミン
(友常甘酢/女性/テーマ「パン」)

〈木下さんのコメント〉
未来の自分へごめん、と思いながら「数本の線キャベツ」に健康を託して欲望を満たす。未来の自分へごめん、と思いながら「数本の線キャベツ」を不健康への言い訳とする。ポテトも野菜だろ。大丈夫、大丈夫なはず。でも一応、野菜ジュースを買って帰ろう。そんな夜を思い出した。

〈読者の短歌〉
僕らには花びらがついていないから
ほんとうの意味の季節を知れない
「虫とか花とかからすると、四季ってもっともっと劇的で過酷なものなんだろうなぁ。なんて思って作りました。」
(佐倉遼/男性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
人間にとって心地よい風が、花びらを落とす。人間にとってわずらわしい雨が、花の命を支える。世界に対する花と人間の感度の差。それは計り知れないが、花のほうがはるかに感度は高い。感度の高さとは影響の受けやすさであり、影響を受けやすい花のほうが四季を深く認知しているのかもしれない。

現状、58588の短歌ですが、

花びらのないぼくたちがほんとうの四季の姿を知ることはない
花びらのないぼくたちがほんとうの季節の顔を知ることはない

とすることで57577に収めることができますね。

〈読者の短歌〉
出しすぎたハンドクリームを分け合うべき人おらず肘が潤う
(ラージライス/女性/自由詠)

〈木下さんのコメント〉
「出しすぎた」こと、「分け合うべき人」がいないこと。二重のかなしみが「肘が潤う」という良い結果に着地する。そういえばマイナス×マイナス=プラスって中学校で習いましたね。

〈読者の短歌〉
君が吐き出したすいかの種を食べへそから生える子を待っている
(赤片亜美/女性/テーマ「夏」)

〈木下さんのコメント〉
返歌:抱いているすいかをおれに見せながら「あなたの子よ」とほほえむ女

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