山田ルイ53世さんが選ぶ、大人に希望をもたらす3冊の絵本。
撮影・黒川ひろみ
山田ルイ53世(やまだるい53せい)さん
お笑いコンビ「髭男爵」ツッコミ担当。著書に『ヒキコモリ漂流記』(マガジンハウス)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)など。小2と1歳、2人の娘がいる。
『パンダ銭湯』
一つのお題でずっと大喜利している感じ。
パンダの親子が風呂に入るというだけの話ですが、絵本で爆笑したのは初めてです。良質の漫才の後半部分のような畳み掛けがお見事。そのボケ方も思い切っていて痛快この上ない。一発目のサングラスの件(くだり)から、見事に裏切られましたね(笑)。もうとにかく、パンダの黒い部分を取りたい、ただそれだけ。そのために、話の舞台を銭湯にしたのかと思うと、何か執念めいたものさえ感じます。我が子にも、こういう考え方ができる人間になってほしいものです。
『ことば絵本 明日のカルタ』
“出来上がった”大人こそ、解放される瞬間を体験できる。
著者の倉本美津留さんは、構成作家としても長く活躍されている多才な方。実は長女が生まれる前に、この絵本は手にしていましたが、いまだに彼女には読ませていません。
問題は、「お」……〈落ち込んじゃってブルーな気分。いえいえブルーは空の色〉とか、「き」……〈キリンの特徴を 首が長い以外で答える カッコよさ〉といった、人の固定観念をひっくり返していくようなその内容。ある程度、“凝り固まって”からじゃないと、かつての僕が「ハッ!」としたあの感覚を得られないんじゃないか、それではもったいないなと悩んでいます。小学3、4年生までは待とうかなと。「き」には絶対触れてほしいし、読んでいるところを横で観察したいですね。
実は、著者ご本人に、「読ませるならいつがいいですか?」と伺う機会があったのですが、「いつでもええでー!」と陽気に返されて終わりました(笑)。
『りんごかも しれない』
もっと自由でいいんだと思い出させてくれた。
いまは漫才もコントもツッコミで笑いを取るスタイルが主流。ボケを捻り出す際も、「ツッコめる=おかしさを説明できる」のが前提で、僕自身も理屈を取っ掛かりに思考する癖がついてしまっている気がします。いわば剪定された盆栽のようなもの。どう転んでも、「もしかしたらぼくがりんごかも?」といった、「そんなこと考えても何の得もない」ような“発想の枝葉の茂らせ方”はできない(笑)。ものの考え方を広げていくのに役立つ本だと思いました。
『クロワッサン』1025号より
広告