くらし

大林宣彦監督『海辺の映画館―キネマの玉手箱』。映画の力に託した未来へのメッセージ。

印象に残る名画を残した大林宣彦監督の遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の魅力を評します。
  • 文・金原由佳
瀬戸内キネマ閉館日のオールナイト上映を観に来た若者は、スクリーンの世界に時間移動する。

去る4月10日、大林宣彦監督がこの世から旅立った。コロナウィルスがなければ、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の劇場公開日であった。2016年夏、『花筐/HANAGATAMI』の撮影前日に肺がんが判明し、余命半年と宣告されながらも映画作りの歩みを止めず、『花筐』の後、取り掛かったのがこの『海辺の映画館―キネマの玉手箱』である。

驚いたのは商業映画デビュー作『HOUSE ハウス』(’77年)のキッチュでアバンギャルドな作風が色あせず、さらに過激なこと。書き割りのような背景に、チープな合成を施した大林カラー全開のファンタジーの世界。映画とはどんな悲惨なことが起きてもそれは夢、映画館を出れば現実に戻れる。ならばその力を信じ、今宵限りで幕を閉じる尾道の映画館の最後の上映会「日本の戦争映画大特集」に立ち会い、一緒に旅してみないか。そんな大林監督の目論見による上映時間179分!

若者3人は太平洋戦争での沖縄の浜辺にタイムリープ。吉田玲演じるヒロインの希子は、紺碧の海の魅力と大切さを静かに話す。(C)2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC

代表作『時をかける少女』のように時を交差し、あまたの戦争の真っただ中に飛び込むヒロインの名は希子(のりこ)。大林監督は幼少期、故郷尾道で小津安二郎監督の『東京物語』のロケを見学しており、原節子演じる紀子と重なりあう名だ。物語が幕末の戊辰(ぼしん)戦争から始まるのは負けた側の歴史を語り継がなかったことが、その後の戦争に続いたという戒めから。福島の白虎隊と娘子(じょうし)隊から第二次世界大戦末期の満州、沖縄、鳥取、広島の原爆に巻き込まれる移動劇団・桜隊の悲劇と、その瞬間を辿っていく。

そこで際立つのが弱者の象徴である少女の在り方だ。大林映画といえば穢れなき少女の輝きを永遠にフィルムに封じ込む作風で熱烈なファンが多いが、ひねくれ者の私はその聖少女ぶりにときに鼻白む悪い観客だった。だが、今作では生を全うできなかった無数の少女たちの無念の想いを希子が引き受け、その上で彼女は楽しく華やかなミュージカルナンバーを通し、“ハッピーエンド”と歌いあげる。これぞ、大林監督が私たちに託した未来へのメッセージなのである。(文・金原由佳)

『海辺の映画館-キネマの玉手箱』

監督:大林宣彦 出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子ほか 179分 7月31日公開、詳細は公式サイトにて。https://umibenoeigakan.jp
twitter@umibenoeigakan

江戸の世に来ると、ヒロイン3人は町娘姿で、若者と対面する。
原爆投下直前の広島で若者3人は移動劇団「桜隊」を救出しようとするが……。

『クロワッサン』1022号より

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