くらし

芸術の解らない人間なんていない――山本美智代(画家)

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、抽象芸術の作家で、装丁家の草分けとしても知られる人物の言葉に耳を傾けます。
  • 文・澁川祐子
1978年11月25日号「美的生活のためのエッセイ」より

芸術の解らない人間なんていない――山本美智代(画家)

絵画や版画、コラージュや紙の造形など、さまざまな形で抽象芸術を発表してきた山本美智代さん。稲垣足穂や、なだいなだなど数多くの装丁を手掛けたことでも知られています。

1977年、山本さんはポーランドの四大都市で個展を開催。そのときを振り返って綴ったのが、「美的生活のためのエッセイ」に寄せられた「版画とわたし」と題するこの文章です。

展覧会の反応は上々で、来た人々は、言葉は通じなくても表情や、身ぶり、手ぶりで感動を表現してくれる。画廊に入ってくるのは、インテリや若者だけではなく、子ども連れの夫婦もいる。

ある夫婦などは、子どもを会場にしばし残し、戻ってきたときには黄色のラッパ水仙を一輪、両手で大事そうに持ってきた。そして、その花を「ありがとう」と言って手渡してくれたという。

そんな人々の姿を目の当たりにして、ひるがえって山本さんは日本での反応を思い返す。〈「あなたの画は難しくて……」とか「私は専門家じゃないから、芸術は解らないけれど」と必ず前置きする日本人が多いのはなぜか〉と。

それは、芸術を理解するには教養が必要という思い込みがあるからではないか。でも芸術は本来、心で見るものだと山本さん。〈芸術の解らない人間なんていない〉という潔い言葉には、数々の作品を広く世に問うてきた人だからこその力強さがありました。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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