できたてホカホカのおにぎりを多くの人に届けたい。ONIGIRI GOが目指す未来の食のかたち。
撮影・黒川ひろみ 文・澁川祐子
「生産技術の研究所で働いていた自分が、まさかおにぎり屋をやるとは思ってもいませんでした」
そう微笑みながら語るのは、「ONIGIRI GO」を切り盛りする店長の池野直也さんだ。コンクリートの壁と木製のインテリアで統一された店内。おにぎりらしきものは見当たらないが、それもそのはず、「ONIGIRI GO」は作りおきを一切せず、できたてのおにぎりがテイクアウトできる新しいスタイルのおにぎり店なのである。
客は、まず専用サイトで事前に注文する。そして指定した時間に店舗に行くと、できたてほかほかのおにぎりが用意されているという仕組み。現在は直接店舗での注文や現金払いも受けつけているが、将来的にはすべて事前注文、キャッシュレス決済を目指しているという。
注文が入ると、システムが算出する最適なタイミングでおにぎりを作り始める。といっても手で握るわけではない。ご飯を機械にセットすると、すぐさま三角に整形されたおにぎりが出てくる。それを用意しておいた海苔と具材の上にのせ、海苔をくるりと巻いて袋に入れればできあがり。1個を作るのに、15秒もあれば十分だ。
これなら特段、調理の技術も必要ない。それが冒頭の「まさか自分が」という池野さんの発言につながる。
狙うは、年間約80億個のおにぎり市場。
「ONIGIRI GO」は、じつはパナソニックの新規事業を創出するプラットフォーム「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」で進行しているプロジェクトの1つだ。
パナソニックがおにぎり店の運営に乗り出したのは、もとはおにぎりを自動で作るロボット「OniRobot(オニロボ)」を開発したのがきっかけだった。その技術を生かして、事業を行うためのプロジェクトが始動。2019年8月からリーダーを務めることになったのが、研究所に入社した後、経営企画に転じた池野さんであり、その実証実験を行っているのが「ONIGIRI GO」なのだ。
「日本では米の消費量が年々減っていますが、それに反しておにぎりの需要は伸びています。現在、年間約80億個のおにぎりが国内で消費されていますが、おにぎりの専門店はわずか800店ほど。ですから、お客さまに価値を認めてもらえる店を作ることができれば、その市場を取りに行けると思ったんです」