この時期に演じる噺を桜前線風に解説します。│柳家三三「きょうも落語日和」
イラストレーション・勝田 文
寄席は娯楽の場所ですが、お芝居のように“ハレ”の日を楽しむというより、もっと日常的な成り立ちでした。晩ごはんを済ませた近所の人人が、寝るまでのひとときをのんびりすごす、つまり現在のリビングのテレビみたいな感覚も大きかったようです。そんなところから庶民の生活感、とくに季節の移ろいなんかは色濃く反映されてますね。
そろそろ寄席でお客さんのお耳に入る機会の増えてくる噺が「長屋の花見」。貧乏長屋の面々が大家さんの発案で上野のお山へ花見に行くことに。大家さんが支度してくれたお酒が実は薄めたお茶、かまぼこは大根のこうこ(漬物)、卵焼きはたくあんだったと知って店子一同がっかり半分、やけ半分で……。というおなじみの演目です。
経験上この噺の上演頻度を桜前線風に申し上げると、2月中旬から下旬にかけて各寄席で開花宣言。3月上旬に四分~五分咲き、中旬から下旬は一気に満開となって4月上旬まで続き、中旬にかけて散ってゆく、てなところ。この時期は連日落語でお花見日和です。
この噺を得意にしていた故・入船亭扇橋師匠は「落語の季節感は少し先取りがいいんだよ。この噺も花が満開になる前までがいいね」と教えてくれました。続けて「お正月は初“春”ってくらいだから」と言って、ときおり元日からの初席でも演じていました。私は内心「さすがに早すぎないかしら」とは思っていましたが。某師匠は10月にこの噺をかけて楽屋で周りに「早すぎ」と言われると「早くない、今年の春の名残を惜しんだんだ」って。これにはあきれて一同黙ってしまいましたよ。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1016号より
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