三十代半ばまで私は「好きな男優ベストテン」を掲げて定期的に更新し、ジャン=ルイ・トランティニャンは長年にわたって私の心のベストテン上位にランキングしていた。特に『暗殺の森』と『男と女』の二作が私の心を揺さぶったのだ。そのジャン=ルイが、89歳にして再び『男と女』の五十年後の設定で登場したのが『男と女 人生最良の日々』である。共演はもちろん前作と同じくアヌーク・エーメ。監督クロード・ルルーシュ、音楽フランシス・レイもまた同じである。
物語はジャン・ルイ(トランティニャン)が認知症のため息子に老人ホームに送られたところから始まる。過去の記憶もあやふやなジャン・ルイだが、かつて愛した女性のことだけは鮮明に語る。彼女に会えば少しは病の進行を止めることができるのでないかと考えた息子がアンヌ(エーメ)を探し出し、父に会ってくれと懇願し、二人は再会を果たす。
エーメは、美しい。撮影当時87歳とはとても思えない。一方ジャン=ルイは、私だけでなく見た人すべてが「え? これがトランティニャン?」と息を呑むはずだ。しかしそんな観客の反応も想定済みでカメラの前に立った(はず)、89歳の彼の役者根性には頭が下がる。
映画では時折回想として『男と女』が挟み込まれる。音楽も懐かしの「ダバダバダ~」で、これだけで往年のファンは落涙必至だ。
しかし、1966年制作の前作がスタイリッシュで叙情にあふれ時代の最先端をゆく作品であったのに対し、今作はむしろ人生のリアルに重点を置いている。アンヌが初めて老人ホームでジャン・ルイを見た時の戸惑いと落胆。それに気づかず昔の俺はモテ男でねえ、と自慢して昔の恋人を再び口説こうとする老人。リアル、である。美男美女の息子と娘がそうでもない、というのもリアル。
あの時の恋人と結ばれていたら私の人生どうだったかしら?と思う人には、間違いなくお薦めの映画である。