くらし

縫い目に見る美しい人。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

蚤の市で手に入れた古い着物をほどいて簡単なカーテンを作った。昔は、季節が終わるたびに着物をほどいて反物の形に戻して手洗いし、次の季節にはまた仕立て直すということをしていたと言う。だから、ほどくのはそれほど大変なことではないだろうと高を括っていた。

初めは、きっと糸をスルスルっと抜くコツがあるのだろうと、そのコツを色々探したが見つからない。インターネットでコツを披露してくれているけれど、手にした着物は糸が古すぎるのか途中で切れてしまい、そう簡単に糸がスルスルとは抜けてくれない。結局、糸にハサミを入れては数目分引きちぎる形で進めていく。そんなやり方をしていたので、縫われた目を一目一目見ながらの作業となったのだが、本当につくづく驚くことは、その一目一目がとても美しいことだ。

隠れた部分も、一定のリズムでまっすぐ縫われていて、この糸を縫った人に想いを馳せたくなる。自分が布を両手で握り、糸を引きちぎっていく乱暴な行為をしているだけに、この着物を縫った人はきっと繊細で奥ゆかしく、美しい人だったに違いない、と勝手に妄想する。

途中、引きちぎるのも諦め、細かく糸をかがった裾は布をハサミで切り落とすという暴挙にもでた。不甲斐ない私は、結局全ての糸を引きちぎり、着物をほどくのに3日かかった。

母の若い頃、女性は皆、着物を仕立てることができたという。得手不得手の個人差は必ずあっただろうに、女性だからできるのが当たり前だった時代、ここまでの細かい作業をできるようにならなくてはいけなかった時代に生まれなくて本当に良かった、とつくづく思った。

男女平等が叫ばれているけれど、男女問わず、こんな美しい線を作れる人は、やっぱり美しいな、と思う。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/にて。

『クロワッサン』1014号より

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