そんな状況を変えたのが「ピストン藤井」としての活動だった。富山の“普通”からとことん浮いてやろうと、藤井さんは、富山の珍味のような魅力を発信。ライター活動を始めると、アクの強い富山の人々と居場所に出会えた。
本書では、藤井さんが愛する食堂やビリヤード場などが、そこで暮らしを営む人々のエピソードとともに描かれる。
「富山だからこそ生まれた魅力を『ピストン藤井』ではなく『藤井聡子』として丁寧に描きたかった」
なぜなら、藤井さんは次第に限界を感じ始めていたからだ。
「ミニコミの取材などでは面白おかしく紹介していたのですが、お店の人と仲良くなるとネタとして消費していることに罪悪感を覚えるようになりました。愛情を持って真摯に書いていたのですが、振り返ってみると茶化しているように見えてもおかしくなかったです。この本はその後悔の念から書き始めたところがあります」
そして、その思いをさらに強くしたのは、北陸新幹線開通に伴う富山駅前や街なかの再開発だった。
「初めて見たはずなのに、なぜか見覚えがある。再開発後の富山は東京で見たような景色でした。郷愁とか懐かしいなんて感情ではなくて、変な既視感。商業施設が建てられて、大好きなミニシアターが休館して、すごい早さで街が変わることに危機感を覚えました」