今だからこそ面白い。大人が読みたい、珠玉の絵本10選。
撮影・黒川ひろみ 文・新田草子
『まあちゃんのながいかみ』 福音館書店
たかどのほうこ
果てなく広がる空想に、心が解放されていく。
長い髪のはあちゃんとみいちゃんに、これから髪を長く伸ばすのだと自慢する、おかっぱ頭のまあちゃん。長いおさげで魚を釣ったり、木に結んで洗濯ロープにしたり……。まあちゃんのどんどん広がっていく空想がユニーク。「長い髪のお姉さんに憧れた、子ども時代を思い出させてくれる物語。ポイントは何といっても、まあちゃんの突き抜けた想像力です。 それを『へえー』と受け入れる2人の友だちの存在もほほえましい。たかどのほうこさんの作品にはほかにも『みどりいろのたね』など、凝り固まった大人の心も解放してくれる楽しいものがたくさんあります」(ろばのこ・藤田とわさん)
『ちいさいおうち』 岩波書店
バージニア・リー・バートン 文、絵 石井桃子 訳
経済発展の陰にある、本当に大切なこと。
静かな田舎で、四季の移り変わりとともに人々を見守っていたちいさいおうち。やがて道路ができ、高い建物に囲まれ、 自身もみすぼらしくなってしまったおうちが思うのは……。 アメリカで1942年に出版され、日本でも50年以上愛されている絵本。「デザイナーとしても活躍した作者の、すみずみまで細やかに描きこまれた絵には、文章が語る以上の物語が刻み込まれています。ぜひひとつひとつの場面を丁寧に見てみてください。おうちのとまどいや悲しみ、そして希望が感じられたとき、幸せを取り戻す結末がかけがえのないものに感じられるはずです」(教文館・川辺陽子さん)
『ふしぎの国のアリス』ニジノ絵本屋
松本かつぢ
大人のための愛らしいビジュアルブック。
昭和中期にかけ、少女の叙情画で活躍した少女漫画家、叙情画の作家・松本かつぢ。今なお多くのファンを持つ彼が、50年以上前に描いた原画を、現代版絵本として再出版するプロジェクトの第1弾。「原画そのままの柔らかな色彩と繊細な線、スタイリッシュな構図を堪能してください。背表紙に布を使うなど、製本にもレトロな味わいを加えています。簡単な英訳付きなので、英語で読んでみたい方にもおすすめです。松本かつぢの原画の多くは、東京・世田谷区の松本かつぢ資料館に保管されています。見られる機会があったらぜひ、絵本とあわせて楽しんでほしいです」(ニジノ絵本屋・いしいあやさん)
『どしゃぶり』 講談社
おーなり由子 文 はたこうしろう 絵
弾けるような身体感覚に心が震える一冊。
暑い夏の午後、突然の激しい雨に飛び出していく男の子。「ずざあずざあずざあ」と降る雨を、「ぱちんぱちぱち」とおでこで受け止めて、全身で雨を感じている。「言葉と絵が絶妙に折り重なる。雨の音がサラウンドのように響き、傘に雨が当たる振動まで伝わってくるような、五感を刺激される絵本です。途中のひと見開きだけ男の子の視点になるページでは、こちらも雨の中に放り込まれた気分に。最近どしゃぶりというと災害をイメージして心痛みますが、雨は恵みでもあります。恐れながらも驚き憧れる、自然への畏敬の念を表現した見事な一冊です」(ブックハウスカフェ・茅野由紀さん)
『黒ねこのおきゃくさま』 福音館書店
ルース・エインズワース 作 荒このみ 訳 山内ふじ江 絵
美しい絵とともに語られる、冬の夜の物語。
冬の嵐の晩、貧しいおじいさんの家にやってきた1匹の黒猫。痩せてお腹を空かせ、びしょぬれになった猫のために、おじいさんは精いっぱいのもてなしをする。食べ物も薪もついえてしまったけれど、黒猫と過ごした温かな時間は、おじいさんの大切な思い出に。「絵の美しさに惚れ惚れします。猫の表情も丁寧に描かれていて、たまらない可愛さ。そして、どうなるのだろうとハラハラしながら読み進めると、最後に幸せな気持ちになれる結末が。人の在り方にも思いを馳せられる、大人も読みごたえのある一冊です。クリスマスの贈り物にもぴったりでは」(Wonderland・長谷川みゆきさん)
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