くらし

ワクワクを手放す覚悟。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

ヨーロッパの人々の働き方はメリハリがある。1日の働く時間もハッキリ決められていて、休日出勤などしてる人に私は会ったことがない。以前、ヨーロッパで同居していた友人が8時に帰宅し、「ここのところボロ雑巾のように働いている」と言ったことに驚いた。通常は5時に仕事が終わるのに、7時まで残業したことを嘆いていたのだ。

それでもヨーロッパの社会は回っているし、仕事や収入は日本よりずっと安定している。実際仕事のレベルが低いわけでもないし、日本でもこんな働き方が出来たら良いのに、とつくづく思う。

ヨーロッパに3ヶ月滞在後、日本のコンビニでワクワクしながらお菓子の棚を見て、フッと気づいた。日本のお菓子の種類はヨーロッパのそれと比べものにならない。広いとは言えない店内スペースに生活必需品を取り揃えるコンビニでさえ、お菓子コーナーの充実には目を見張るものがある。このワクワクを提供するために、多くの日本人は働き詰めなのだ。目の前にどんなに沢山の種類のお菓子があったとしても、私が買うのは1、2点。それはヨーロッパの少ない種類のお菓子を前にした時と変わらない。少なくてもお菓子を食べたければ、その中からより気分の合うものを選択するだけ。ポテトチップスを食べたいとき、種類が多いからといってポテトチップスをいくつも買い込む訳ではない。日本で感じる「多くのものの中から選択する幸福」は、お菓子だけに限らない。お金を支払う前に「選ぶ」という行為の楽しみが、どんなことにも付いてくる。当然、それだけの商品企画が実現に漕ぎ着けているという結果であり、人口が限られている中、その種類分、支持が分散するということだ。お菓子を作るために多くの人がどんなに働いたとしても、消費者一人がお菓子を買う量には限りがあり、種類が多いということは、消費者を取り合い、分散させているにすぎない。

働き方改革を進めていくと同時に、消費者の私たちが「選択のワクワク」を手放す覚悟があるのか。それを手放して手に入るのは何なのかを考えながら、自分にもその覚悟を問うていきたい。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/にて。

『クロワッサン』1007号より

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