寄席にまつわる思い出噺を少々……。│柳家三三「きょうも落語日和
イラストレーション・勝田 文
先日は当誌の落語特集で寄席案内を担当させていただき、ひさしぶりに新宿の末廣亭で、客席に座りました……といっても開演前の無人の状態でしたけれど。
そういえば初めてここへ来た中学一年生のときには、最前列の座席のさらに前に一列、補助椅子が並んでいて、そこに座ったなあと思い出しました。
当時(今もかもしれませんが)中学生が一人で寄席に来るというのは珍しいことだったようで、周りの大人から声をかけられたり、「これおあがり」なんてサンドイッチやおにぎりをもらったりということもありました。
寄席というのは基本的に飲食自由(お酒はご遠慮いただいている席もあるそうです)な空間ですから、落語を“鑑賞”するというより、のんびり“楽しむ”雰囲気が強いようです。ときには団体のお客さまがいっせいにお弁当を食べ始めて、ワサワサワサと、まるでさざ波のように音が客席から押し寄せてくることもあります。
ただ、ときにはお客さまの思いとギャップが生じることがあります。池袋演芸場という寄席では月に一度、夜の部で「二ツ目勉強会」という催しがあります。真打昇進前の若手がこれはと思うネタを真剣に演じるのを、幹部の師匠たちが客席でお客さまに混じって聞き、終演後に講評・指導するのです。その少々ピリッとした客席で焼きギョウザとビールで楽しみたいというお客さまがおいでになったことがありました。亡くなった名人・古今亭志ん朝師匠が「お客さま、今日だけはご勘弁を」と頭を下げるくらいのにおいでしたよ。
柳家三三(やなぎや・さんざ)●落語家。公演情報等は下記にて。
http://www.yanagiya-sanza.com
『クロワッサン』1002号より
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