【長塚圭史さんロングインタビュー】唯一の未発表戯曲が本邦初上演。新生阿佐ヶ谷スパイダースと演劇のこれから。
それからおよそ10年、戦後のカオスな日本を舞台にしたそのアナザーストーリーが、劇団化した新生阿佐ヶ谷スパイダース2作目の演目としてこの秋、上演されることに。
撮影:中島慶子
演劇への向き合い方が変わった『蛙昇天』と『王将』
—そういう考えになったはっきりしたきっかけはありますか? 長塚さんの人生の中で。
それはね、二つあるんですよ。一つは仙台で震災の後に『蛙昇天』という木下順二のそれはもう大変な芝居をしたこと。手作りで、どこからも助成金もなくてね。10-BOXってちょっと離れたとこにあるスタジオだったんですけど、そこのスタジオをいくつか借りて、地元の人たちと一緒に朝から晩まで。
僕と中山(祐一朗)と伊達(暁)は仙台で下宿しながら、毎日スタジオから3人で帰ったら鍋とか食べて、ずっと演劇のことやって、夜11時12時ぐらいから飲み始めてずーっと芝居の話して、朝は僕は早起きして片付けして、また3人で稽古場に行って、またずーっと稽古して。夕方ぐらいになると、伊達と中山が作ってくれた弁当食べて……って訳がわからないんだけど(笑)。でもひたすら生活しながらお芝居やるっていう生活が面白かったんですよね。
—面白かったんですか。
うん。とてもいい公演だったけど、チケットが売れるわけでもない、仙台の本当に一角でね。今まで自分がやってた、商売としての演劇とまるで違う、なんのお金にもなんない、2か月の旅みたいな。結局、こんなことがしたかったんだなと改めて思った。
—発見ですね。
もう一つは、山内圭哉と福田転球、大堀こういち、それに僕の4人でなんか芝居やろうって。最初「小金貯めたいよね」って呼ばれたんだけど、でも僕は、せっかく面白い4人が集まってるんだから小金貯めるなんてみみっちいことあるかって(笑)。
で、70人しか入れない楽園っていう小劇場を借りて、そこで将棋の阪田三吉の『王将』三部作ですよ、北條秀司が書いた。それを3本やろうって。70人のキャパで王将三部作やるって、ちょっと訳わかんなくて面白いなって(笑)。キャストはどうしようって言うから、うちにちょっと小春(三吉の妻)みたいのがいるからって常盤貴子をキャスティングして。
—うち、ってそっちのうちですか(笑)。
彼女もまあそういうの好きだから。でもお金はないですってキャスティングしときながらも、大東駿介とかそういう人たちが集まってくれて。で、チラシ作る段階になったら山内くんが、福田転球が主役だからって言って彼を携帯でバシャッて撮って。
—写メ(笑)。
「これで作るわ」って作り始めたり。4人での宣材写真がないとビジュアルイメージがないから、じゃあシモキタに集合しようと。どんな格好で? うーん一張羅で来てくれって。みんな一張羅って何なんだろうって考えて、集まると、ほぼ全員蝶ネクタイ(笑)。その恰好で自撮り棒で下北沢の街で写真を撮ったんですよ。音楽も自分たち、制作も自分たちで、僕が劇場に電話して。まあ今も全部そうですけど。
—今もそうなんですね。
最初の打ち合わせは全部入ってます。そうするとやっぱり、じゃあなんとかしましょうとなる訳ですよ。『王将』も、楽園には楽屋もないからどうすると。そしたら同じ劇場グループである本多劇場の本多一夫社長が、「駐車場の一角貸してあげる」って。そこに大量の衣裳を置いて。
あとは楽屋がないから合間には紋付袴着たような人が、常盤も僕もみんなね、下北沢の本多劇場の周りをなんかぶらぶらしてる。日によっては朝から晩まで。見ようと思えば一日下北沢散策しながらそうやって見られる。そういう公演だったんですよ。
—見るほうもやるほうも楽しそうですね。
こういうやり方があるんだって思いましたね。もっと自分たちでやれることを探さなきゃなんないし、もっとできないと思ってることをやれるようにしたいなと。
—そこからの今の阿佐ヶ谷スパイダース。
『蛙昇天』は今の劇団のことを大きくスタートさせるきっかけだし、『王将』はそれを加速するものにはなってますね。
—どちらも偶発的というか、仙台は震災の後だし、『王将』は仲間に誘われて、ですよね。
演劇って、やっぱり生だから、現在の自分がものすごく反映されるんですよ。今の考えも反映される。
—『桜姫』も反映されているんですか?
この台本からさらに加えたこともありますし、やりながら発見していってることもある。だから時代と合わせるというより、僕ら人間はどんなものなのかというのが表現されますね。
残忍な見方ではありますけど、生きるってことは殺し合うこと。他者を受け入れるのに僕らそんなにキャパシティないですよ。追い越したいし、自分のほうが強いことにしたいし、安心が欲しいし、そのために色んなものを潰していく。そういう欲に満ちている。だからこそ、そこをどうにかしなきゃいけないからこそ愛しいし。どうしようもない生き物ですよ。
—そうですね……。
僕ら劇団ってすぐ他を閉ざして自分たちだけの世界に閉じこもっちゃう可能性があるんですよ。それで王国みたいになっちゃう。そうしてすごくつまんないことになってしまう。だから常にこうやって広げながら誰でも来て、面白いよって言える、人が行き交う場所にならないといけないし、常に扉を開けてなきゃと思う。
—触れられる演劇。
でも人間の本質は閉じたいですよ。鍵閉めたいですもん、安心したいから。安心したいし、誰かを守りたいっていう欲ですよ。子供を守りたいとか。それで閉ざしてるところはないだろうか。怖い世の中だからしょうがないってとこもあるかもしれないけど、でも、そうだっけ?って。もうちょっと信頼したり信用したりするところってあったような気もするし。
今はどこか基本的には疑うことを余儀なくされてるけど、便利になればなるほどそういう本質ってむき出しになってくるようにも思える。
—あの、長塚さんって日々そのように考えて過ごしてらっしゃるんですか。
いや、こんなひどい芝居と向き合うから!(笑)こういう人間の嫌な部分に出合うんですよ。自分で書いたのに「こいつ何やってんだよ」「この権助って奴は一体なんなんだ」なんてことにもだんだん当たってくるから、加筆したり。そこにはやっぱり今の時代を見るものはどうしても反映されてくると思います。
……とか言ってるけど、舞台はやっぱり生ですからね、見てもらうとまた全然違うものかもしれない(笑)。
公演概要
【タイトル】阿佐ヶ谷スパイダース『桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡(もえてこがれてばんどごろし)〜』
【原作】四代目鶴屋南北『桜姫東文章』
【作・演出】長塚圭史
【音楽】荻野清子
【出演】大久保祥太郎、木村美月、坂本慶介、志甫まゆ子、伊達暁、ちすん、富岡晃一郎、長塚圭史、中山祐一朗、中村まこと、藤間爽子、村岡希美、森一生、李千鶴
【スタッフ】舞台監督:足立充章、美術:片平圭衣子、照明:齋藤茂男、音響:内藤勝博、衣裳:柿野彩、ヘアメイク:河村陽子、大道具:鈴木太朗 唐崎修、演出助手:山田美紀、票券:熊谷由子、公演制作:太田郁子、劇団制作:福澤諭志 下村はるか
【協力】公益財団法人 武蔵野文化事業団
【企画・制作】一般社団法人 阿佐ヶ谷スパイダース
【会場】吉祥寺シアター
【公演日程】2019年9月10日(火)〜28日(土) 全21ステージ
【チケット】一般 前売5,500円 当日5,800円
バルコニー席 3,000円(前売・当日共) 他
キャスト&スタッフによるプレトーク、国文学研究資料館特任教授・有澤知世氏によるスペシャルプレトーク、バックステージツアー、託児サービスあり。詳しい日程は公式サイトにて。
阿佐ヶ谷スパイダース
http://asagayaspiders.com/
桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡〜
http://asagayaspiders.com/nextstage.html