知っておくとお互いがラク。男性更年期の傾向と対策
イラストレーション・金井冬樹 構成&文・板倉みきこ
不調の原因を知ることは、対策を講じる際にとても重要なこと。でも、厚生労働省が行った更年期に対する意識調査によれば、「男性にも更年期にまつわる不調があることを知っているか」との問いに対し、「よく知っている」と答えた男性は2割未満と少数派。
「ただ、男性芸能人が更年期をカミングアウトするなど、ここ数年で認知度は上がってきていると思います。特にコロナ禍以降、心身の不調を更年期と結びつけて来院される男性も増えましたし、カップルで相談に来る方もいます」(医師・土井直人さん)
男性更年期障害は、医学的にはLOH症候群(性腺機能低下症)と定義。健康な成人男性は、加齢とともに性ホルモン(代表格はテストステロン)が低下し、様々な症状を引き起こす。
「女性は、月経などでホルモンのアンバランスがもたらす心身の揺らぎを経験しているので、更年期症状にも敏感です。一方男性は、女性ほど更年期の概念が浸透していないので、更年期の不調に気づきにくい傾向があります」
さらに、閉経を境にホルモンの低下が一気にやってくる女性に比べ、男性ホルモンの低下は緩やかな下降線を描き、生涯にわたって続くのが特徴だ(下図)。
「更年期の始まりや症状の重さは個人差が大きいですし、異変を放置し症状が悪化する可能性も懸念されます」
そこで大切なのが、夫やパートナーの変化に早めに気づき、症状の悪化を防いで改善をサポートすること。
「血液検査でホルモン値は正常でも、症状が出ているからどうにかしてほしい、というパターンもよくあります。ホルモン補充療法以外にも、漢方からアプローチしたり、生活習慣を改善するなど、男性の更年期障害への対応もいろいろあります。どんな方法が効果的か、一度病院で相談してみるといいですよ」
不満や不安と無縁の生活を過ごすため、自分の更年期対策同様、パートナーの更年期の対処も心得ておきたい。
Q どんな人に起こりやすい?
A 誰にでも起こるけれど症状に個人差アリ
更年期が訪れるのは万人共通だが、症状が重く出る人には傾向がある。
「内臓脂肪の増加はテストステロン低下の要因になるので、肥満傾向の方は要注意です。また、運動不足はテストステロンを低下させますし、筋肉がつきにくい人は、痩せていても内臓脂肪が多い可能性が」
さらに、ストレスの多い生活を送っている人も、症状が重く出やすい。
「ストレス対応にコルチゾールというホルモンが分泌されるのですが、原料が性ホルモンと同じ。ストレス対応にたくさん原料が使われてしまうと、性ホルモンの合成量は減少し、不調をもたらすのです」
Q 代表的な症状は?
A 患者の主訴で多いのは精神的な症状
ひどい発汗やほてり、倦怠感、筋力の低下などの身体的症状、以前に比べ神経質になった、イライラするなどの精神的症状、性欲の低下など性機能における症状と3つに分類される。
「中でも、気力やモチベーションの低下を主訴として訴える人が多い印象です。抑うつ症状が強い方も多いですが、うつ症状イコール男性更年期の症状ではないというのが難しい点。識別しづらいので、私のクリニックでは心療内科と泌尿器科が連携してチェックするようにしています」
本人が自覚しにくい場合も多いため、家族や身近な人が以前との変化に気づけると心強い。
Q 病院へ行くべきサインは?
A チェックリストを参考に柔軟な対応を
男性更年期の症状なのか、ある程度チェックできる方法がある。
「国際的にも使われているAMSスコア(加齢男性症状調査票)で判断します。ひどい発汗がある、睡眠の悩みがある、気力が低下したなど17項目あり、ネットでも簡単にチェックできます。ただ、女性の更年期障害と同様、日常生活に支障をきたしているようであれば、専門医に相談するほうがいいと思います」
とはいえ、いきなり病院を勧めると、否定したり怒ってしまう人もいる。
「私も婦人科に行こうと思っているけど、あなたも一度検診してみない? と提案するのも手です」
Q 治療法を知りたい
A ホルモン補充療法以外にも選択肢が
治療の基本はテストステロン補充療法で、現在国内で行えるのは保険適用の筋肉注射と、自由診療の塗り薬(クリーム)となる。
「薬の副作用を気にして治療を受けたくないという人や、ホルモンの数値は平常値なのに症状が重い人などは、内面から少しずつ改善でき、個人の体質に合わせて処方できる漢方からのアプローチも提案します」
また、生活習慣を改善することで、症状が緩和する人も多々。
「ストレスが溜まるとホルモン値は下がります。生活環境を見直してもらい、ストレスを軽減するとホルモン値が上がったというケースも多いです」
『クロワッサン』1152号より
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