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猛暑が来る前に始めておきたい、”暑熱順化トレーニング”とは?

過去最高の暑さを記録した昨年に引き続き、今年も間もなくやってくる猛暑のシーズン。もはや〝災害レベル〟ともいわれる暑さを前に準備すべきは、汗をしっかりかける体づくりです。ゆらぎやすい自律神経のバランスにも対処しつつ、元気に夏を乗り切るコツを身につけていきましょう。

撮影・青木和義 イラストレーション・小林マキ スタイリング・高島聖子 ヘア&メイク・坂西 透  モデル・希実 文・オカモトノブコ 撮影協力・UTUWA

まだ間に合う!夏に備える体づくり。

オーガニックコットンパイルドレス3万5200円、オーガニックコットンタンクトップ8,250円(共にフィルメランジェ TEL.03・3473・8611)
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大人の女性は、暑さに弱くなりやすい。

女性ホルモンの減少とともに自律神経のバランスが乱れがちな世代は、とりわけ夏の猛暑が体にこたえやすい。

「自律神経や寒暖差による不調で受診される患者さんの7~8割が女性。体温の調整機能が低下しているうえ、更年期のホットフラッシュなどによって熱がこもり、体が暑さにうまく対応しきれなくなるのです。自律神経の働きそのものが衰えているため、更年期を過ぎて不調が続く人も多く見られます」と話すのは、自律神経や気象による不調のケアに定評のある久手堅司さん。

さらに問題は、エアコンの利いた室内で体が逆に冷えてしまうこと。

「男性に比べて筋肉量が少なく末端が冷えやすい女性は、血流も低下しがち。体の外側は暑いのに内側は冷たい状態になり、自律神経による気温のセンサー機能も低下するため、体温調整に必要な汗をよりかきづらくなります」

【年齢区分別の熱中症救急搬送者数(2023年)】年齢を重ねるほど暑さへの感覚が低下し、熱中症のリスクが上昇する。「発生場所別では約4割が屋内で発症していたという報告も」と泉澤さん。|総務省消防庁「令和5年(5月から9月)の熱中症による教急搬送状況」より引用 ※高齡者(65歲以上)、成人(18歲以上65歲未満)、少年(7歳以上18歳未満)、乳幼児(生後28日以上7歳未満)、新生児(生後28日未満) ※総搬送者数91467人
【年齢区分別の熱中症救急搬送者数(2023年)】年齢を重ねるほど暑さへの感覚が低下し、熱中症のリスクが上昇する。「発生場所別では約4割が屋内で発症していたという報告も」と泉澤さん。|総務省消防庁「令和5年(5月から9月)の熱中症による教急搬送状況」より引用 ※高齡者(65歲以上)、成人(18歲以上65歲未満)、少年(7歳以上18歳未満)、乳幼児(生後28日以上7歳未満)、新生児(生後28日未満) ※総搬送者数91467人

ほかにも、女性を取り巻く環境には夏の不調を招く要因が。日本気象協会の泉澤里帆さんは「女性は高温多湿のキッチンに立つ機会が多く、高齢の方は特にトイレが近くなるのを避けて水分摂取を控える人も。昨年、熱中症の搬送者数が例年の10倍だった北国では、未だ自宅にエアコンがないという方も多いかもしれません」と問題点を指摘する。

夏バテをきっかけに、不調がドミノ倒しに。

「熱中症は高温多湿の環境に体が適応できず、体温が上昇して発生する症状の総称です。めまいやだるさ、筋肉の痛みなど症状の表れ方もさまざまなため“まさか自分が”と、発症に気づかないケースも」と泉澤さん。

共通するのは、暑さへの準備ができないうちの活動によって発症するということ。さらに久手堅さんは、「自律神経の乱れや基礎疾患などもともとの不調がベースにあると、コップから水が溢れ出るように不調が表れやすくなります。夏バテから始まって胃腸のトラブル、不眠や倦怠感、そして熱中症へと至るのが最悪のパターンです」と話す。

この熱中症のツラさは、なって始めて分かるもの。後遺症に悩む人も多い。

「とはいえ熱中症は、事前の対策で予防できます。気候は変わらずとも夏に耐えられる体づくりで暑さにうまく向き合えば、夏をもっと快適に、楽しく過ごせるようになりますよ」(泉澤さん)

猛暑が来る前に始めておきたい、”暑熱順化トレーニング”とは?

本格的な夏が始まる前からできる、有効な猛暑対策。

「熱中症を引き起こす要素は“環境”と“体”“行動”によると考えられます。特に体は汗をかくことで体内の熱を逃がすため、気温だけでなく、湿度が高くて風が通らない、汗が出にくいジメジメした“環境”には要注意です。夏前から暑さに体を慣らす“暑熱順化”で、汗をかきやすい体づくりを意識的に行うことが大きなポイントに」(泉澤さん)

また自律神経のバランスを整えるという観点からも“体”への対策には大きな意義があるという。「リラックス時に働く副交感神経は運動後のほか、息を長くしっかり“吐く”ことに集中すると優位になります」と久手堅さん。

さらに“行動”からは「外出先の気温や湿度を事前に調べたり、備えとして塩分補給タブレットなどを災害セットのように持ち歩いたりするのも手。それでも“熱中症かな?”と思ったら、ためらわず救急車を呼ぶことも視野に入れておきましょう」(泉澤さん)

【●暑熱順化前線】各地で暑熱順化が必要なタイミングの目安を知らせる「暑熱順化前線」。この時期から暑さに慣らす対策を始めるのが、熱中症を防ぐための大切なポイントに。|参考:日本気象協会による「暑熱順化前線」(2024年4月9日発表)
【●暑熱順化前線】各地で暑熱順化が必要なタイミングの目安を知らせる「暑熱順化前線」。この時期から暑さに慣らす対策を始めるのが、熱中症を防ぐための大切なポイントに。|参考:日本気象協会による「暑熱順化前線」(2024年4月9日発表)

夏に負けない体づくり、今すぐ開始! 無理のない暑熱順化トレーニング。

ツラい猛暑を乗り切る秘策として、ぜひ取り入れたいのが〝暑熱順化〟のためのトレーニング。早めの準備が肝心です!

「暑熱順化」とは。

熱中症や夏バテを防ぐキーワードとして近年その重要性が注目されている〝暑熱順化〞。

「体が暑さに慣れることを意味し、一般の方々にも広く知っていただきたい暑さ対策に必須の方法です」と日本気象協会の泉澤里帆さん。

暑さに慣れないと皮膚の血流量が増えにくく、放熱しづらいため熱中症の危険も。
暑さに慣れないと皮膚の血流量が増えにくく、放熱しづらいため熱中症の危険も。
暑熱順化できると汗が放熱し、体温が上昇しにくい=暑さに負けない体に。
暑熱順化できると汗が放熱し、体温が上昇しにくい=暑さに負けない体に。

「暑くなると、人は汗をかくことによる気化熱、心拍数の上昇、皮膚の血管拡張によって体の表面から熱を逃がし、体温を調節しています。けれども暑さに慣れないと、皮膚の血流量が増えにくく熱をうまく放散できないうえ、汗に塩分が多く含まれて体内のナトリウムが失われ、熱中症を招きやすい状態になってしまうのです」

日本の高温多湿な環境でこのように熱の放散がうまくできなくなると、汗をかきづらくなって体の中に熱がたまり、体温も上昇しがちに。そのため「熱中症の対策は、まず暑さに体を慣らすことが第一歩」なのだという。

始める時期、行う期間。

「暑熱順化とはすなわち、汗をかきやすい体を作ること。暑い夏に体温を上手に調整していくための一番のポイントです」と内科医の久手堅司さん。

とはいえ、本格的な暑さを迎えてから対策を、では遅い! 

「個人差はありますが、暑熱順化には数日から2週間ほどかかります。暑さのピークが来る前から準備開始の設定を」と泉澤さん。

久手堅さんからは、「運動習慣のない人は汗をかきづらいので、1~2週間ほど早めに考えて」とのアドバイスが。

注意したいのは、梅雨で一時的に気温が下がると、いったん暑熱順化できた体が元に戻ってしまうこと。「暑熱順化の対策はパタッとやめるのでなく、日々の生活で緩やかに継続していくのがおすすめです」(泉澤さん)

猛暑が来る前に始めておきたい、”暑熱順化トレーニング”とは?

暮らしの中で暑熱順化。

まず手軽な方法が入浴。「疲れや不調は、なるべくその日のうちにリセットを。シャワーだけで済ませず、10~20分程度でも湯船に浸かると汗が出ます」と久手堅さん。

日本気象協会では全身浴(2日に1回程度)のほか、ウォーキング30分、ジョギング15分(共に週5回程度)、サイクリング30分(週3回程度)、筋トレ・ストレッチ30分(週5回~毎日)などを推奨。

「あくまで目安なので、軽く汗ばむ運動を無理のない範囲で行い、通勤や買い物など日々の生活にできる範囲で取り入れて。サウナの場合、体調に気を付けて、自分のペースで安全に汗をかくのが前提です」と泉澤さん。「汗を出すのが目的なので、くれぐれも無理をしないことが大切です」(久手堅さん)

猛暑が来る前に始めておきたい、”暑熱順化トレーニング”とは?
  • 泉澤里帆 さん (いずみざわ・りほ)

    一般財団法人日本気象協会「熱中症ゼロへ」リーダー

    熱中症予防指導員。「熱中症ゼロへ」プロジェクトのリーダーを務め、早い時期から熱中症へ備えることの重要性を呼びかけている。

  • 久手堅 司 さん (くでけん・つかさ)

    せたがや内科・神経内科 クリニック院長、医学博士

    「自律神経失調症外来」「寒暖差疲労外来」などで患者に寄り添った診療が話題に。『毎日がラクになる! 自律神経が整う本』など監修本や著書多数。

『クロワッサン』1118号より

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