からだ

腰痛を引き起こす内臓の病気にはどんなものがある?

内臓の病気の症状として現れる腰痛について、整形外科医の伊藤晴夫さんに話を聞きました。
  • 文・山下孝子  イラスト・宇和島太郎、松元まり子 

内臓の病気による腰痛(内臓の病気の症状として現れる腰痛)

(どんな症状ですか?)痛みが和らがず他の症状をよく伴う

骨や神経の障害ではなく、腰痛を引き起こす内臓の病気の例として挙げられるのは、胃や十二指腸の潰瘍や、肝臓や膵臓(すいぞう)、胆のうの炎症や腫瘍といった消化器系の病気などです。また、尿路結石などの泌尿器系の病気や、子宮がんなどの婦人科系の病気、心筋梗塞などの循環器系の病気が原因になることもあります。

内臓の病気が原因で腰痛が起こるとき、多くの場合は腰の痛みだけでなく、発熱や腹痛を伴なうことが多くあります。このような症状がある場合は、整形外科よりも内科を受診しましょう。

単に風邪をひいたときも、腰痛と発熱が同時に起こることはあります。また、まれなケースではありますが、MRIで大動脈瘤が見つかることもあります。

内科の病気が見つからなかったのに発熱と腰痛が続く場合は、下で紹介するような、椎体炎・椎間板炎などの重い感染症にかかっている可能性があります。

●骨への細菌感染
下記でも紹介する椎体炎・椎間板炎は、肺炎や膀胱炎の細菌が脊椎に感染することで起きます。急性・亜急性・慢性の3タイプがあり、急性は背中の痛みや発熱・吐き気・倦怠感などを伴います。

●がんの腰椎への転移
内臓にできたがんは背骨に転移しやすく、特に腰椎のリスクが高い傾向があります。動作に関係なく腰が痛み、体重の減少や食欲の減退などの症状を伴う場合は、がんの転移の可能性も検討しましょう。

●尿路結石・腎炎
腰痛だけでなく激しい腹痛を伴う場合は、尿中の成分がかたまった「結石」が尿管を移動する尿路結石の可能性があります。腎臓で細菌が繁殖する腎炎は、吐き気や血尿、高熱を伴うことが多いです。

●婦人科系の病気
通常の月経時や不正出血が起きた時に腰痛を伴う場合は、月経困難症、子宮後屈、卵巣嚢腫といった婦人科系の病気の可能性が高くなります。また、更年期障害が腰痛を悪化させる場合もあります。

●消化器系の病気
胃や十二指腸の潰瘍、肝臓・膵臓・胆のうなどの炎症によって腰痛が起きる場合は、発熱や腹痛を伴うことがほとんどです。安静にしていても痛みが和らがない場合は、可能性が高くなります。

●大動脈解離 \命に関わるので注意!/
最も太い血管「大動脈」が腰付近で裂けることで起こる腰痛です。大動脈が裂けていると、全身の血の巡りが急激に悪化して死亡する危険もあるため、普段から血圧の管理が大切になります。

腰痛を引き起こす病気いろいろ

●脊椎腫瘍(せきついしゅよう)
脊柱管の外側に腫瘍ができる病気

脊椎(背骨)にできる腫瘍には、血管のトラブルに由来する血管腫、骨を構成する組織から発生する骨髄腫、さらにほかの部位にできた悪性腫瘍(がん)が転移したがん腫の3種類に大きく分けられます。

血管腫や骨髄腫は良性のものが多いのですが、がん腫は比較的悪性が多くなり、腰痛を引き起こす場合、男性は前立腺、女性の場合は子宮・卵巣・乳房など、腰に近い部位にできたがんからの転移が多くなります。

腫瘍が大きくなることで脊椎周辺の靭帯、筋肉、脊柱管(の中の脊髄や馬尾神経など)を圧迫するため、腰が重だるくなったり、痛みやしびれを感じたりし、それらが徐々に激しくなっていくのが特徴です。

このため、良性の場合であっても脊髄麻痺などの症状を伴うようであれば、専門医の診察と治療が必要となってきます。

●脊脊髄腫瘍・馬尾神経腫瘍(せきずいしゅよう・ばびしんけいしゅよう)
脊柱管の内側で腫瘍ができる病気

脊椎腫瘍とは異なり、脊柱管の中を通っている脊髄やその周辺組織、そして馬尾神経に腫瘍ができる病気で、良性と悪性の両方の可能性があります。

脊髄やその周辺組織、馬尾神経に腫瘍ができると、脊柱管の中がその腫瘍によって狭くなってしまい、周辺の神経が圧迫されます。この結果、腰や足に痛みやしびれを感じるようになり、それは腫瘍が大きくなるにつれてひどくなってゆき、症状が悪化することで排尿・排便障害や下肢の麻痺が起きることもあります。このため、腫瘍が良性のものであっても、手術によって摘出するのが一般的な治療法となっています。

レアケースですが、脊髄の中に腫瘍ができてしまった場合は、摘出手術の時に健康な脊髄を損傷する危険性もあるため、腫瘍が小さいうちの早期発見が大切になります。

●椎体炎・椎間板炎(ついたいえん・ついかんばんえん)
椎体や椎間板が細菌感染する病気

細菌に感染することで椎体または椎間板が化膿(かのう)する病気で、その大半は黄色ブドウ球菌が原因とされています。初期の段階ではレントゲンで病巣を確認できないため、血液検査、MRI、骨シンチグラフィーなどを実施して診断します。

抗生物質や消炎剤などを用いた薬物療法が一般的ですが、悪化して病巣に膿(うみ)がたまると骨が破壊されるため、手術での病巣の摘出やその後に骨の移植が必要となります。

そうなると、治癒に半年以上かかるうえ、神経にまで細菌感染が及ぶと脳膜炎や脊髄膜炎などの合併症によって命の危険もある病気のため、早期発見が大切になってきます。

症状は発熱を伴い、咳(せき)や体を動かすと腰に痛みが走りますが、病状が悪化すると、痛みが徐々に強くなっていく場合と、急に激しい痛みに襲われる場合があるそうです。

●脊椎カリエス(せきついかりえす)
脊椎が結核菌に感染する病気

肺に感染して肺結核を引き起こす結核菌が、脊椎に感染することで起きる病気です。人間は結核菌に対する抵抗力が弱いため、悪化して感染が広範囲に及ぶと、椎間板や脊椎を損傷する危険性もあります。

原因が結核菌であるため、感染予防に配慮した施設で、抗結核剤を使った薬物療法が主体となりますが、病状によっては病巣の摘出手術が必要になる場合もあります。

前かがみの姿勢がとりづらく、体を動かすと腰に痛みが走り、足に麻痺が起きる場合もあります。また、夜間になると痛みが強くなる傾向があり、寝ていてもなかなか痛みが治まらないのが特徴です。

特効薬が開発されたことで、結核は過去の病気とされてきましたが、2020年に岡山県と福岡県で結核の集団感染が発生しているため、警戒が必要です。

伊藤晴夫

伊藤晴夫 さん (いとう・はるお)

整形外科医

メディカルガーデン整形外科院長。JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)元副院長・整形外科部長。岐阜大学医学部卒業。腰痛疾患や股関節疾患の臨床に長年携わり、一流アスリートの治療にもあたっている。『腰痛の運動・生活ガイド』(日本医事新報社)、『腰痛をすっきり治すコツがわかる本』(永岡書店)など、腰痛関連の著書・監修書多数。

※プロフィールは雑誌掲載時の情報です。

『Dr.クロワッサン 脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、ぎっくり腰もスッキリ! 腰痛の新常識』(2020年8月27日発行)より。

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