お酒が好きな肝臓医に教わる、体の負担を軽くするお酒の飲み方。
撮影・内田紘倫 イラストレーション・安彦麻理絵 構成&文・堀越和幸
安彦 先生はお酒が好きだったから肝臓の専門医になったのですか?
浅部 それはなくてですね(笑)、消化器内科がやりたくてグループに入ったのですが、当時のボスがたまたまウイルス性肝炎を研究していた関係もあって肝臓医になりました。
安彦 お酒は学生の頃から?
浅部 はい。アルバイトで家庭教師センターの雇われ社長をやってまして、そのセンターの経営者がまた派手な人で、毎晩のように銀座に飲みに連れて行ってくれたんですよ。時代はバブルで、クレージーでした。安彦さんが飲み始めたのは?
安彦 私は山形出身で、家では父が友人を家に招いて年中宴会をやっているような環境でした。でも、その頃は逆にお酒にあまり興味がなく、本格的に飲み始めたのは、東京に出てきて一人暮らしを始めるようになってからですね。
浅部 なるほど。普段は何をどのくらい飲むんですか?
安彦 ハイボール缶を5本、というのがいつものパターンです。先生はどんな飲み方ですか?
浅部 その時の料理に合わせて飲むことが多いので、ビール、ワイン、日本酒、いろいろですね。
安彦 ちなみに休肝日は?
浅部 作ろうと思いつつ、ないんですよ。量は調節したりしてますが。
安彦 ご家族が心配しませんか?
浅部 妻も飲むんですよ。家には日本酒の一升瓶専用の冷蔵庫があるんですが、妻と二人で2合以上飲まないよう気をつけている。2合以上飲むと、一升瓶がすぐに空になるので。
安彦(笑)ご両親はお酒は強かったんでしょうか?
浅部 父は強かったですが、母はいわゆる下戸でした。安彦さんは?
安彦 うちは父も母も飲んでいました。母は私の子どもの出産祝いに“労いのワイン”を贈ってくるような人で。ちなみに私も休肝日はないです。
浅部 休肝日には議論がありまして、休肝日を作っていても、ほかの日にたくさん飲むというのは、私は勧めません。肝臓が分解できるアルコールの量には限りがありますので。よく一日の飲酒の適量は20グラムと言うでしょう?
安彦 ああ、日本酒なら1合とか、ウイスキーならダブル1杯とか、とても守れそうもない数字ですね!
浅部 そうです。あの数字はこれくらいなら害はないでしょう、という厚労省による目安ですが、守れば安全というわけでもない。その一方で、60グラムを超えるような明らかに飲み過ぎの人は、健康被害が途端に出やすくなるという報告があります。
安彦 量が問題なんですね。
浅部 はい。なので、安彦さんもハイボールを飲むなら缶ではなく、好きなウイスキーを自分で割って作るといいかもしれません。
安彦 なるほど、アルコールの量を調節できますもんね。
お酒は、酔うために飲むのではなくて……。
浅部 好きなウイスキーの香りを楽しみながらだと、案外、薄めに作っても満足できますよ。なので、うちでは炭酸メーカーを買いました。あれは便利です。ペットボトルのゴミも出ませんし。
安彦 そうなんですよ! 酒瓶とか多いと、もうゴミ出すのが恥ずかしくて。それにしても、専用冷蔵庫に炭酸メーカーと先生のお家はもうお店が開けますね。
浅部(笑)酔うために飲むのではなく、味わいながら飲むというのがお酒は大切かもしれません。
安彦 なるほど。実は、去年の夏頃コロナ禍もあってちょっと精神的にしんどくなって、秋からランニングを始めたんですよ。そうしたら走った後のハイボールがこれまた美味しいんですよね。せっかく走っているのに、飲んで台無しにしている気がしなくもないんですが。
浅部 運動はいいですよね。運動不足は目下の自分の最大の課題です。
安彦 おつまみは何がいいとかありますか?
浅部 タンパク質や食物繊維などはいいですね。お酒の吸収を穏やかにしますし、お酒の分解にはアミノ酸が必要ですから。チェイサーなどをはさんでゆっくり飲むことです。
お酒にはリスクがある。だから、やめるべき?
安彦 先生にお聞きしたかったんですが、よくちゃんぽんで飲むと酔うと言いますが、あれはどういうことですか?
浅部 ああ、ちゃんぽんだから酔うのではなくて、ちゃんぽんで量をたくさん飲むから酔うんですよ。お酒飲みの悪いクセで、何かを飲んでいて、次のお酒に移行するときは、それまでのことがなかったかのようにまた一から飲み始めようとするでしょう。脳は麻痺して忘れていますが、体は忘れませんから。
安彦 やっぱりアルコールの量なんですね。
浅部 お酒にはリスクがあります。けれども、スポーツにはリスクがあるからやめましょうとは誰も言いませんよね。要は自分の許容範囲で楽しめばいいんだと思います。お酒を飲んで他愛のない話をするだけで、人間は理解が深まることもありますしね。
安彦 わかります。振り返ってみれば、私の場合、お酒なしで始まった恋愛は一つもなかったかも……。
浅部 それを聞いて、私も思い出しました! 遠い昔、自分もお酒を飲まない女性とは結婚できないと思っていました(笑)。
『クロワッサン』1066号より
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