耳鼻咽喉科医がすすめる感染症対策、「うるうる粘膜」を作る舌磨きとうがい。
液で適度に湿った「うるうる粘膜」を維持するには、どうすればよいのかを紹介します。
文・山下孝子 イラストレーション・松元まり子
粘膜は外敵との戦いの最前線。
人間の鼻や口はのどの部分で合流し、そのまま食道、胃、腸、肛門まで一本の管(消化管)でつながっており、その内側は粘膜によって覆われています。
粘膜はカラダの内側でありながら呼吸や食べ物に含まれる異物に接する場所でもあるため「内なる外」とも表現される部分で、細菌やウイルスなど人体に有害なものが侵入してきたときに備えて、高い免疫力を持っています。
しかし、粘膜の免疫力が高いのは粘液によって常にうるおっているからです。乾燥や炎症によって粘膜がガサガサに荒れてしまえば、免疫力は低下してしまいます。
そこで、粘膜のうるおいを保つためにはどうしたらよいのか、インドの伝統医学アーユルヴェーダを診療に取り入れている、耳鼻咽喉科の医師である北西剛さんに話を聞きました。
粘膜を荒れさせる要因は複数あり、適度に湿った「うるうる粘膜」を維持するためのルールを紹介します。
口のなかが汚いと鼻もつまりやすくなる
鼻と口はつながっているため、口中環境が悪化すると副鼻腔炎のリスクが高くなり、鼻が詰まると口呼吸で口の粘膜が乾燥する悪循環に陥ります。
口中環境の悪化により副鼻腔炎のリスクが。
そもそも、舌磨きやうがいで口をきれいにすることと免疫力にどんな関係があるのでしょうか。
「最近の研究では、虫歯や歯周病などで口内環境が悪い場合、腸内環境が悪化したり、副鼻腔炎になるリスクが高くなることがわかっています。もし副鼻腔炎で鼻がつまれば口呼吸で口の粘膜が乾燥して免疫力が下がるうえ、鼻で呼吸するよりも細菌やウイルスが体内に侵入しやすくなりますね」
通常の舌磨きやうがいでも口のなかの清潔は保てますが、インド生まれの伝統医学・アーユルヴェーダを治療に取り入れている北西さんのおすすめが、古典で用いられている銅製のタングスクレイパーの代わりに、金属のスプーンを使った舌磨きと、セサミオイルや馬油を使ったうがい、また唾液の分泌を促す唾液腺マッサージです。
「セサミオイルや馬油は口腔ケア用のものの代わりに太白(たいはく)ごま油でも大丈夫です。なお、うがいをしたあとのオイルは雑菌が多いため、必ず吐き出してください」
【舌磨きとうがいが 「うるうる粘膜」をつくってくれる。】
1.金属のスプーンで舌を磨く。
●起床直後の舌のネバネバを除去。
舌には睡眠中に口のなかで増えた雑菌が溜まっています。飲み込まないように、金属製のスプーンでやさしく舌を磨きましょう。
2.大さじ1杯のオイルでうがい。
●口の雑菌をオイルでからめとる。
セサミオイルや馬油を口に含み、両頬→右頬→左頬→両頬→上唇→下唇を順に膨らませてブクブクし、オイルを吐き出しましょう。
3.3ヶ所ある唾液腺をマッサージ。
(A)舌下腺(ぜっかせん)
(B)顎下腺(がっかせん)
(C)耳下腺(じかせん)
●手や指を使ってやさしく刺激。
舌下腺は頬の後ろ側・耳の前の下側にあります。顎下腺は下あごの骨の内側の横側に、舌下腺は下あごの骨の内側の真ん中にあります。やさしい力加減でマッサージして唾液の分泌を促しましょう。
『Dr.クロワッサン 感染症に負けない、カラダをつくる。』(2020年11月30日発行)より。