こんな症状があったら要注意。女性のがん死亡原因の1位の大腸がんなど、医師に聞く腸の病気いろいろ。
どんな腸の病気になりやすいのかも気になります。医師の山口トキコさんに詳しく聞きました。
文・及川夕子 イラスト・松元まり子
● 大腸がん
女性のがん死亡原因の1位。症状がなくても検診を
早く見つかるほど治りやすい
大腸がんは、女性が注意すべきがんの一つ。40代から罹患(りかん)数が増えていき、女性のがん罹患数では乳がんに次いで2位、死亡数では1位です。
【死亡率】
(1)2018年のがん死亡1位が大腸
【男性】
1位 肺 2位 胃 3位 大腸 4位 膵臓 5位 肝臓
【女性】
1位 大腸 2位 肺 3位 膵臓 4位 胃 5位 乳房
(2)2017年がんの罹患率は2位に大腸
【男性】
1位 前立腺 2位 胃 3位 大腸 4位 肺 5位 肝臓
【女性】
1位 乳房 2位 大腸 3位 肺 4位 胃 5位 子宮
出典:厚生労働省の人口動態統計「悪性新生物<腫瘍>の主な部位別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移よりデータ作成。
【40年で7倍に増えた大腸がん】
また、この40年ほどで、大腸がんの患者数は約7倍に増加しました。これには、大腸がんが検査で見つけやすいがんであることも影響しています。
大腸がんはどこにできるのか?
「日本人では、S状結腸と直腸にがんができやすいといわれています。初期にはほとんど症状がなく、進行すると血便、下血、慢性的な出血による貧血や、腸が狭くなることにより便秘や下痢を繰り返す、お腹が張るなどの症状が出ることがあります。
痔でも出血することがあるため、自分では判断がつきにくいでしょう。それは、肛門に近い場所にできる直腸がんやS状結腸がんも、痔と同じように便に赤い血が混ざるからです」
リスク因子としては、肉類(動物性脂肪)の摂取、飲酒、喫煙、肥満などが挙げられます。また、家族に大腸がんになった人がいたり、潰瘍性大腸炎を長く患っていたりすると発生しやすい傾向が。
有効な手段はやはり検査。早期がんで見つけることができれば、ほぼ完治が見込めます。
「罹患者が増える40歳からは、要注意年齢です。大腸がん検診は毎年受けましょう。精密検査が必要になったら、早めに消化器科、胃腸科、肛門科などを受診してください。家族歴があるなどリスクが高い人は、3年に1度大腸内視鏡検査を。気になる症状が続く場合にはすぐに受診しましょう」
こんな症状があったら要注意
▢ 血便や下血
▢ 下痢と便秘の繰り返し
▢ 便が細い、残便感がある
▢ お腹が張る、腹痛
ほかに貧血や体重減少など
※早期の段階では自覚症状はほとんどありません
● 虚血性大腸炎
血流障害がきっかけ。便秘も要因の一つ
こんな症状があったら要注意
▢ 突然の強い腹痛と下痢
▢ お腹の左側が痛くなる
▢ 下血が続く
突然お腹の左側が痛くなることが多い
大腸粘膜への血液の流れが悪くなり、炎症や潰瘍が起こる病気です。血流が悪くなる原因は、高血圧や動脈硬化、ストレス、そこに便秘などで腸管内に圧力が加わるためと考えられています。突然の強い腹痛と下血などがみられます。
「虚血が起こりやすいのは大腸の左側、S状結腸や直腸であるため、突然お腹の左側が痛くなることが多いです。大半は一過性のもので、その場合は安静にして3日間くらいで治ってきます。ほかに、腸管が狭くなる狭窄(きょうさく)型や大腸が壊死(えし)してしまう壊疽(えそ)型があります。壊疽型は非常に稀です。症状から大腸内視鏡検査やエコー検査で診断します」(山口さん)
● 潰瘍性大腸炎
お腹が弱い、便に血が…炎症性腸疾患の一つ
こんな症状があったら要注意
▢ 激しい下痢
▢ 粘血便が長く続く
▢ 腹痛
▢ 発熱
中高年でも増加。 検診で見つかる場合も
大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらん(ただれ)や潰瘍が起こる病気です。原因は免疫異常によるものと考えられており、症状悪化の要因として食生活の欧米化やストレスが挙げられます。
「若い年代に多い病気ですが、40代以降の発症も増えています。近年は薬で症状をコントロールし、日常生活が送れるようになってきました。ただ、長い間炎症が続くことでがんの原因になる場合もあるので、定期的な経過観察は必要です。大腸がん検診で見つかるケースもあります。血便が出ているときには、放置せず医療機関を受診しましょう」(山口さん)
● 大腸憩室(憩室出血、憩室炎)
お尻から大量出血!?大腸憩室からの出血かも
こんな症状があったら要注意
▢ 突然の赤黒い下血(憩室出血)
▢ 左下腹腹部痛、発熱
▢ 便秘や下痢をしやすい
憩室は上行結腸やS状結腸にできやすい
大腸憩室(けいしつ)とは、大腸の壁の一部が押し出され袋状(憩室)になった状態。食生活の乱れや便秘、ストレスなど腸に負担をかける生活や、加齢により腸の粘膜が弱くなり憩室ができやすくなると言われています。近年、増加傾向にある腸の疾患の一つです。
「症状がないことがほとんどですが、憩室に便が詰まって炎症(憩室炎)を起こしたり、憩室内の血管がもろくなって大量出血(憩室出血)を起こすこともあります。憩室は上行結腸やS状結腸にできやすいため、左右の下腹部に痛みが出やすいと覚えておきましょう。多くの場合、絶食をしたり食事量を減らしたりして安静にし、抗生物質を投与することで治ります。必要に応じて内視鏡止血を行うこともあります」(山口さん)
● そのほか
子宮や卵巣にできた腫瘍が便秘を招く場合も
こんな症状がある場合は腸以外の病気かも
⃝ 便秘とともに生理痛、頻尿、腰痛など ⇒子宮筋腫
⃝ 便秘とともに腹痛、腰痛など ⇒卵巣嚢腫(のうしゅ)
⃝ 便秘とともに寒がりになる、疲れやすい、むくみなど ⇒甲状腺機能低下症
ポッコリお腹の背景に子宮筋腫や甲状腺疾患
例えば子宮筋腫。40代では40〜50%が持っていると言われるほど身近な病気です。筋腫が大きくなってくると下腹部が膨らんできたり、膀胱(ぼうこう)が圧迫され頻尿になったりすることがあります。女性ホルモンの影響を受けるため、閉経後には筋腫は縮小していきます。
一方、卵巣に腫瘍ができる卵巣のう腫でも、便秘や頻尿、腰痛、ポッコリお腹などの症状が出てきます。好発年齢は20〜30代。
甲状腺機能低下症では代謝を調節するホルモンが不足してくることから、むくみ、便秘、お腹の張り、体重増などがみられます。
『Dr.クロワッサン 免疫力アップの決め手、腸内環境を強くする』(2020年7月30日発行)より。