ふだんの食事と運動の工夫で、何歳からでも骨は強くなります。
予防はいつから、何から始めたらいい?
大事な骨を守る秘訣を骨の専門家・太田博明さんから学びます。
文・及川夕子 撮影・黒川ひろみ イラストレーション・松元まり子
骨は若さを生み出す臓器。減らさない対策を。
「一生自分の足で歩き続けるために、私は今『65歳でYAM80%を目指そう』と、呼びかけています。これを『65‒80(老後をハッピーに)』運動と名付けています」と太田さん。
「骨密度は、一般に45歳からの5年間で約5%、閉経後の10年間で15%も減少し、60歳で80%を切る計算に。65歳でYAM80%を目指すには、40〜50代での頑張りがカギになります」
確実な対策は、食事で骨の材料を補い、運動で骨に刺激を与え続け、骨細胞に「骨を作れ」という指令を送ること。
「骨を強くするには、カルシウムだけでなくたんぱく質やビタミンDも必要。ビタミンDに至っては女性の80%が足りていません。ビタミンDは日光浴をすることで、皮膚でも合成できます。サプリメントや肝油で補う方法も」
運動面では、「ウォーキングだけでは強度がやや弱い。動けるうちに筋トレを積極的に取り入れて。筋肉を増やすことでも骨の代謝はアップします。マッスルメモリーといって、若いうちに筋トレをしておくと、将来入院などで運動ができない状態が続いた場合でも、筋トレを再開すれば元の筋肉を取り戻すことが可能です」
それでも骨量が減ってきてしまったら、「薬剤を含めたトータルな治療を早めに開始しましょう。整形外科ばかりでなく、内科や婦人科のかかりつけ医で相談を」と太田さんはアドバイス。
「ビスホスホネート製剤やサームと呼ばれる薬、活性型ビタミン D3 、更年期には女性ホルモン製剤も使われます。適切な時期に治療を始めれば、薬によっては10年間で腰椎20%、大腿骨で10%程度、骨密度を増やせます。骨は新陳代謝する臓器。諦める必要はありません」
骨量を維持するメリットは、骨粗しょう症予防にとどまりません。骨の細胞からは全身のさまざまな細胞を活性化する物質が出ています。つまり、骨が元気なら内臓や肌も元気でいられるのです。
また、新型コロナ対策で注目を集める「免疫力」にも骨は関係。近年の研究から、骨を作る骨芽細胞が出すホルモンであるオステオポンチンは、骨髄に存在する「造血幹細胞」の機能を若く保ち、全身の免疫力を活性化する作用があることが明らかになってきました。
今や骨は「若さを生み出す臓器」「美と若さのコントローラー」と言われるほどの存在。
「若々しく、病気になりにくい体づくりの秘訣は骨にあると言っても過言ではありません。骨ケアは、一生続けていく価値があります」
<女性ホルモンが減ると骨密度も低くなる>
(A)
45歳前後を境に最大骨量が減少し始める。検診で自分の骨密度を把握しておく。食事と運動を見直し、生涯にわたる骨ケアのベース作りを。
(B)
閉経直後は骨量低下が最も大きい。引き続きYAM値を把握し必要なら治療を。過激なダイエットはNG。食事と運動で対策をしっかり。
(C)
サルコペニア(加齢性筋肉減少症)対策にたんばく質とビタミンD摂取がますます重要。有酸素・バランス・筋力運動を組み合わせた運動を。
(D)
平均的な人でYAM70%以下に。筋力低下のリスクも上昇。適切な治療に加え、食事量を減らさないこと。進行の抑制・改善には運動が第一。
骨折が少ない女性がしていること。
・痩せすぎない。
栄養不足が骨折を招く。たんぱく質とビタミンDを積極的に摂る。
・紫外線を浴びる。
日焼け止めはほどほどに。ビタミンDの80%は皮膚でできる。
・少しキツめの運動を。
骨に負荷のかかる運動を毎日。筋トレもしっかり。
・骨量チェックを習慣に。
40代から定期的に検診を。YAMが80%を切ってきたら1年に1度。
・積極的な治療で骨量を増やす。
中等度以上(YAM75%以下)の骨粗鬆しょう予備群になってきたら、年齢を考慮しつつ治療を検討。
・遺産効果のあるホルモン補充療法も選択肢に。
閉経後の10年間で人生最大「15%」の骨量低下があるので、この時期の女性ホルモン、サーム、ビタミンDによる介入は後年になって遺産的な効果があることが判明。
『Dr.クロワッサン 何歳からでも骨は強くなる』(2020年3月28日発行)より。※プロフィールは掲載時点の情報です。