津田 老けた感じがするといってクリニックに来る方は、ちょうど子どもが独り立ちする頃と重なって、〝空の巣症候群〟みたいになるんです。自分だけ取り残されたという感覚に陥ってしまう。
黒川 お受験とかバレエの発表会とか、それまで子どもにうんと手をかけてきて。でも子どもが巣立ったら生きる張り合いがなくなってしまった、と。
津田 それで、鏡を見たら顔にたくさんのシワができていて、人と会いたくなくなる。布団から起き上がれなくなる人もいます。でもね、そういう方たちが肌のケアをして少しでも〝きれい〟を取り戻すと、途端に元気になってものすごくアクティブに社会生活を送るようになるんです。私はこういうのも、自分のために行う美容のひとつだと思いますが。
倉田 日本だと女房と畳は新しいほうがいいと言われますけど(笑)、フランスではワインと女性は時を経たほうが価値があると言われていて。ヴィンテージ(年代物)を愛でる文化があるでしょ。でもただ古くなったワインは、酸化していて飲めません。やっぱり何かしらお手入れすることが大事ですよね。きれいに磨かれた古い日本家屋の温泉宿がそれなりの風格と魅力をもっているように。単に古くなるのではなく、手をかけながら歳を重ねていくことは大切だと思います。
黒川 それは同感です。たとえばね、20代の女の子が男性に「あなたが一番」と言っても、たかだか20年の人生の中の話。でも50代の私が一緒に仕事をした男性に「こんなに仕事ができる人は、私の人生の中で初めてよ」と言うと、相手の心にかなり響く(笑)。
津田 なるほど、重みが違いますものね。
黒川 この人にもう一度会いたいとかこの人に包み込まれたいと相手が思うのに、容姿は関係ないような。私の周りでは20〜30代より50代で余裕のある女性のほうがモテるんですよ。
倉田 それでも若さに固執してしまうのって、若く見えること以外に自信がもてたり誇れるものが見つからなくなってしまうからじゃないですか?
黒川 いやいや、年齢を重ねただけでも相手を引きつける迫力が出てきますよ。昔、柳橋に100歳の芸者さんがいらしたでしょう。彼女に会いに80代90代の社長さんが通ってきたというのは、やっぱり甘えさせてあげるとか安心させてあげるとか、そういう魅力があったからだと思います。
倉田 おっしゃるとおり。若い子と張り合っちゃダメですよね。一時美魔女が流行りましたけど、若い子と張り合って美しくなろうとしても、本物の若さには負けてしまいますよね。街路樹の葉っぱだって、ツヤツヤの若葉と年月を重ねた葉はやはり印象が違いますもの。