わたしが高校受験を控える受験生だった20数年前、同級生たちは皆、深夜ラジオを聴きながら勉強をしていた。世間でも「受験生=ラジオを聴いて勉強」という揺るぎないイメージがあったけれど、ラジオの内容ばかりに集中してしまうわたしにとってそれは至難の業であった。
それから3年。今度は大学受験を控える受験生となった。相変わらず勉強中のラジオは無理だったけれど、美大受験を希望していたわたしには実技の勉強も必要だった。そこでラジオが活躍した。ラジオを聴くと、デッサンが進むのだ。ラジオを聴いていた方が線に迷いが出ない。雑念がラジオに吸い取られ、絵に影響しない……そんな感覚になる。ラジオリスナーに漫画家が多いというのはナットクだ。しかし。練習は捗ったが、受験会場にラジオはかからない。無音で鉛筆のカリカリという音だけが響く場所の雰囲気に負け、唯一デッサンの試験がない大学にしか合格できなかったのだった……。
現在も、文章仕事の時は無音で。イラスト仕事の時はラジオをかけるのが常。料理の時もラジオを聴きながらが捗る。舞台は変わり、我が息子の通う小規模保育園。園児の給食は栄養士さんが1人で台所にたって朝から作業している。こどもたちが公園に出かけた園でポツンと作業しているので「ラジオや音楽をかけて料理しないの?」と言ってみた。すると「集中できなくなるから、ダメなのよ」と言い、黙々と鍋をかき回し始めた。
料理も、無音で真剣勝負。その背中はなんだかかっこよかった。