双六で言えば、「上がり」。そんな完璧な場面から、映画は始まる。ヒロインのサンドラは、ロンドン近郊サリー州に住む、結婚生活35年の主婦。今日は警察本部長を務め上げた夫・マイクに「ナイト」の称号が与えられる。併せて、サンドラは「レディ」だ。だがその祝賀パーティーの席で、なんとマイクは、サンドラの親友と浮気をしていたことが露呈してしまう。怒りのサンドラは、あまり折り合いがよくなかった奔放な姉・ビフの元に身を寄せる。一方、マイクは離婚を申し渡し、浮気相手と再婚すると言う。サンドラは生涯住むはずだった家を失い、レディの称号もご破算に……。
ここまでは、よくある悲しい熟年離婚話だが、その後が痛快なのだ。物語はパッケージングされた「幸福な人生」をぶち壊し、ジェットコースターで疾走するかのように、サンドラを解放してくれる。傷心のサンドラを、ビフは趣味のダンス教室に誘う。昔あなたは好きだったはず、と。そこはさまざまな問題を抱えた(でも魅力的な)シニアだらけ。サンドラはビフの親友・チャーリーと次第に打ち解けていく。チャーリーは認知症の妻を療養施設に入れるため自宅を手放し、ボート暮らしだ。でも彼は、いつかこのボートで英仏海峡を横断すると語ってみせる。中盤、貧しい人への募金のため、彼らはピカデリー・サーカスをジャックして、ダンスパフォーマンスを披露すると、これがネット動画に流され注目を浴び、何とローマ・ビエンナーレから出演依頼が!?