東宝のお家芸・サラリーマン喜劇 meetsミュージカルの奇跡!│『君も出世ができる』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
時は1964年(昭和39年)、秋に東京オリンピックを控え、高度経済成長まっただ中のイケイケドンドンな空気をまとった和製ミュージカルの傑作『君も出世ができる』。それにしても、「出世ができる!」と言い切るタイトルの勢いがすごいです。未来が明るく夢いっぱいだった素晴らしき昭和を(気分だけでも!)堪能できる1作です。
観光会社に勤めるやる気満々の社員フランキー堺と、対照的にのんびり無欲な高島忠夫。そこに、社長令嬢でアメリカ帰りの雪村いづみ、セクシーな二号さん浜美枝、お茶漬け屋で働く田舎娘の中尾ミエらがからんで、これでもかと歌い踊る100分間。ハリウッドのミュージカルとは一味違う、だけどまったく見劣りしないチャーミングな楽曲は、谷川俊太郎が作詞、黛敏郎が作曲を担当しています。
いまや不可能であろう羽田空港での屋上ロケ、今年閉業してしまった箱根の小涌園(当時は外国人専用だった)の植物園でのダンスシーン、さらには400人のサラリーマンが深夜の丸の内で群舞する圧巻のミュージカルシーンなど、まさに全編が見所。“無責任男”植木等もゲスト出演して場をかっさらいます。
各キャラクターが自分の持ち歌を熱唱するのですが、なんと言っても輝いているのが、テーマソング『アメリカでは』を歌う雪村いづみ。のちに、ピチカート・ファイヴのアルバム『さ・え・ら ジャポン』でカバーされたことでも知られる洒脱な名曲を、メガネ姿でとびきりキュートに歌い踊ります。
日本人離れした超スレンダーなモデル体型の雪村いづみがスクリーンに映るだけで、映画に新しい風が吹き込むよう。そして、「アメリカでは仕事は仕事遊びは遊び/日本では日曜日でも休まない」など、日本人の過剰な働き方を皮肉った絶妙な歌詞が、半世紀以上経ったいまも通用することには思わず苦笑……。働き過ぎに自覚はあるけれど、いまと違って給料も着々と上がるし、出世もできるし、みんな本当に幸せそうです!
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が10月19日公開。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。
『クロワッサン』980号より
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