【器好きのいつもの食卓】あらゆる料理を受け止めてくれる南イタリアの古い焼き物。
撮影・徳永 彩
お気に入りの器はありますか?と聞くと、「はい、このあたりです」と即答が。洋食器を収めた棚の一段に重ねられた古い器は、細川亜衣さんが以前にホームステイしていた南イタリアのプーリア州にある古道具店でひとつひとつ見つけては集めたおおぶりの皿だ。
「洋食のときはほぼ必ず、和食や中華にもけっこう使います。いわゆる洋食器、洋食器していないので、国籍を問わず、世界のどんな料理を盛っても合うところが気に入っていて。私は基本的に、洋食器に和のものは盛りません。逆もまたしかりで。ただ、これだったら違和感がない。中近東の料理もいいですね。どんなときにも自然と手が伸びるほど、この器は懐が深いのです」
同じ土地の器でも鶏や花の絵付きは多いが、細川さんが選ぶのは無地のみ。特有のアイボリー調のやわらかい土で、ほとんど縁の釉薬がはげているけれど、
「そのはげた感じがむしろきれい。日本の器に比べると作りもラフなんですが、私はあまり緻密なものよりも、ある程度おおらかなものに惹かれるので、すごくしっくりきます。古い器には魅力を感じることが多いのですが、器が本当に好きになったきっかけは、このプーリア州の皿に出合ったこと。自分の中でずっと変わらず、たぶん一生好きだし、いつもいちばん好き」
この日も、前菜の野菜料理3品を盛り付けた。白ナスをニンニクとオリーブオイルと塩で炒めてイタリアンパセリをたっぷり和えたもの、赤タマネギとナスを素揚げして塩と赤ワインビネガーをまぶしたもの、生の冬瓜をピーラーで薄切りにしたサラダはオリーブオイルに青い柑橘を搾ったドレッシングで。鮮やかな色や香りが、ぽってりした厚みと温かみのある色合いの器に収まって、なんとも美しい景色だ。
まるでレストランのような、銘々の皿のセッティングもイタリア仕込み。
「あちらの習慣で、必ずお皿を重ねてセッティングするんです。下に大きなメイン用の皿を敷き、上に中くらいの平皿をのせる。私の中で定番になっていて、この平皿やスープ皿を直接テーブルに置くと、なんだか間延びしている気がしてしまう。家はテーブルクロスを敷かないのですが、イタリアでは一般家庭でもクロスを敷いてから、さらに下の皿を敷いて重ねていました。こうしたクッションが、料理をよりおいしそうに見せてくれる気がします」
中サイズの平皿に前菜を取り分け食べ終えたら、その皿を下げ、代わりに、メインの鶏の生姜スープ煮を盛ったスープ皿がのせられた。付け合わせとして、同じスープで別に煮たバターナッツというかぼちゃの小鍋を添えて。
「メインが焼いた鶏なら大皿に直接サーブするんですが、今日はスープと主菜を兼ねたメニューなので、深さのある器を重ねました。こうしてメインの皿の出番がないときは、この後の口直しのサラダやデザートで使うことも」
同じように見える白いプレートも、手元で扱うことで個性がわかる。
こんな大皿、平皿、スープ皿があれば、前菜からデザートまで組み合わせ次第で対応できるのが、洋食器のシステマチックなところ、と細川さん。サイズがだいたい決まっているのも合理的。実は、こうした白い洋食器も、細川さんがイタリアやフランスで少しずつ買い集めたアンティーク。食器棚にサイズごとにきちんと整理されて出番を待っている。
「ほとんど同じように見えるけれど、取り出してみると、ひとつひとつ独特なんですよ。ブルーがかった白、アイボリーっぽいもの、これは貫入が細かく入っているし、こちらは割れたのを直してあって、これは少し重みがありますね。私にとって古い器は実用品であると同時に、その歴史や背景を肌で感じるための大切な存在です。順番に使うことではじめて器の個性というのがわかってきますから」
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