考察『豊臣兄弟!』20話 嘘か? 真か? 藤吉郎(池松壮亮)と松永久秀(竹中直人)の命を賭けた大博打!
文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦
秀吉を救えるのは誰?
竹中直人ここにあり。とくとご覧くだされ!
……とばかりに、竹中直人の怪演がすべて持って行った感のある20話だ。
フィクション設定がてんこ盛りで、とにかく面白かった。
織田信長(小栗旬)が藤吉郎(池松壮亮)に重い口調で告げる。
「北国での戦いは我が方の惨敗じゃ」
天正5年(1577年)9月23日の夜。
柴田勝家(山口馬木也)率いる織田軍に上杉謙信の手勢が襲い掛かった。
激しい雨によって増水した手取川(現・石川県白山市)を渡り退却しようとした織田軍は、千人にも上る討死者と、数千の溺死者を出したのだった。
19話(記事はこちら)で藤吉郎が訴えたとおり、上杉謙信の罠にかかった形だ。
信長は藤吉郎に「なぜ権六(柴田勝家)を止めなかった」と詰問するが、それ以上に問うのは、勝手に戦線から離れたこと。
比叡山と今回で2度目の命令違反であることから、死を命じた。
だが、ここで手討ちにせず切腹もさせず、藤吉郎の懇願を受けて蟄居させるのが本作の信長だ。
しかも、控えている小一郎(仲野太賀)に「あとはお前次第だ」とでも言うように目線をくれるのである。
毎回のことだけど、信長はこの兄弟に優しいね!
小一郎は「兄者をお助けくだされ」と織田家臣団の間を奔走するも、信長にとりなす者は現れない。
一方、撤退中の陣地で小一郎からの手紙を受け取った前田利家(大東駿介)は勝家に進言した。
「先の戦、誰よりも悔いているのはオヤジ様ではありませんか」。
ここで、利家と勝家の関係について述べておきたい。
利家が織田家を追放されたいわゆる笄(こうがい)斬り事件について、レビュー第5回(記事はこちら)で記した。信長の同朋衆を斬った利家は、本来であれば死罪であった。だが柴田勝家ら重臣がとりなしたことで罪を減じられ、追放で済んだという逸話がある。
大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語~』(2002年)では、松平健演じる柴田勝家が利家(唐沢寿明)を庇い、「せめて勘当で」と必死に信長(反町隆史)に申し入れる場面があった。
柴田勝家と前田利家の間には強い信頼関係があったと、大河ドラマだけでなく多くの軍記物語などでこれまで描かれてきたのだ。
この場面で勝家の胸中を推し量る利家には、こうした背景がある。
利家は勝家に、藤吉郎の助命嘆願の口添えをするよう促すが、勝家は
「口添えというものは信のある者がしてこそ意味をなすもの。戦に敗れた今の儂に、上様からの信などはないわ」
陣地の傍にあった野仏に供え物をし、手を合わせる勝家。
討死した者達への追悼、敗軍の将としての責任と後悔。鬼柴田と呼ばれた男の、実直な人物像が垣間見える。
慶の妙案
藤吉郎の助命嘆願として、信長に忠誠を誓う羽柴家一同からの血判起請文。
このくだりは完全フィクションである。
小一郎が広げた起請文の名前の並びで、なんとなくだが羽柴家内の序列が掴める。
筆頭が蜂須賀正勝(高橋努)で、次が前野長泰(渋谷謙人)。その次が竹中半兵衛(菅田将暉)、宮部継潤(ドンペイ)。ここまでは与力の武将たち。
次からは少し小さな字で、杉原家次の名前がある。
ドラマには登場していないが、寧々(浜辺美波)の伯父で、羽柴藤吉郎秀吉の長浜城時代の家老。この世界でも存在してるんですねと嬉しくなった。
その次が、寧々の妹・ややの夫である浅野長吉(大地伸永)。
その後に小一郎&藤吉郎の姉・とも(宮澤エマ)の夫、弥兵衛(上川周作)。妹・あさひ(倉沢杏菜)の夫、甚兵衛(前原瑞樹)が続く。
百姓出身で織田家重臣の藤吉郎の家族よりも、元から侍で織田家臣である寧々の実家に繋がる者のほうが序列が上というのが伝わり、興味深い。
そんな序列など関係なく、小一郎&藤吉郎の血縁である福島正則(松崎優輝)と加藤清正(伊藤絃)を「邪魔じゃ」と押しのける藤堂高虎(佳久創)。
喧嘩するふたりに
「『無駄口を叩く暇があったら手を動かせ』というのが小一郎様の教えじゃ」
高虎は小一郎の初めての家臣となりまだ日が浅いが、着実に学び成長している青年の姿が微笑ましい。
女たちも起請文に名を連ねる。
発案者の慶(吉岡里帆)が血判を行う所作を、怖がりながらも「すごい…」と尊敬のまなざしで見つめるあさひ(倉沢杏菜)。
なか(坂井真紀)「ありがとうね、藤吉郎のために」
とも「当たり前でしょ。慶さんは私たちの身内なんだから」
これまで孤立していた慶に、女たちからの信頼が寄せられてゆく様に安心する。
ところで、長浜に移ってから、なか、とも、あさひの母娘の外見が変化した。
18話(記事はこちら)で商人に安物の着物を売りつけられた設定だから、ちょっと野暮ったいが衣装は打掛と小袖姿に。
城持ち大名の母姉妹であり、身の回りの世話はすべて侍女がするので、日焼けしていた肌は落ち着き、艶やかになった。
小一郎&藤吉郎兄弟の出世に伴い、家族の女性たちのヘアメイクが少しずつグレードアップしてゆく演出を、楽しんで観ている。
嘘も真も存分に楽しめ!
羽柴家一同の起請文は信長に一蹴される。
信長「このようなもので儂の怒りは収まらぬ。が、
松永久秀(竹中直人)が2度目の謀反を起こす。
前の謀反から3年経った天正5年(1577年)。
上杉謙信など反信長勢力の攻撃に呼応して反旗を翻したのである。
「松永を説き伏せ、再び儂のもとに跪かせよ」
「あやつの持つ茶器の中で、もっとも価値のある『平蜘蛛』を差し出させよ」
これが藤吉郎赦免の条件に提示されたミッション。
血判起請文から始まってはいたが、20話の後半は大フィクション祭りだ。
そのひらべったい形が蜘蛛のようだと名付けられた茶釜、平蜘蛛。
この茶釜を信長が降伏の条件に求めたものの久秀が断って自害したという逸話は、江戸初期に編纂された軍記物語『川角(かわすみ)太閤記』(川角三郎右衛門著)などに見られる。
平蜘蛛を鉄砲の火薬で破壊したとか、叩き割ったとか、壊し方も様々に伝わる。
松永久秀爆死描写は近年の小説、漫画などの創作だ。
小一郎&藤吉郎兄弟と松永久秀の談判の場面は、繰り返された
「と言ったら、信じるか?」
この台詞が象徴するように虚実入り混じり、耳を傾ける者を煙に巻く。
Aの平蜘蛛とBの平蜘蛛。
一流の戦国武将、しかも大名茶湯を政治利用する織田信長の重臣なら、本物を見分けることくらい簡単ですよね!
……などというナレーションがつきそうな戦国格付けチェックも、
「何が偽物で、何が本物かなど、そんなものはどうでもいい!」
久秀の、この台詞に集約される。
何が創作で何が史実かなど、どうでもいい。存分に楽しめ。
そう言われているようだ。
「千秋万歳万々歳…」
久秀が朗々と永久の命と栄光を寿ぎ謡う声が響く。
ありったけの爆弾を火中に投じ、笑い声を響かせて松永久秀は爆死した。
創作であっても、この強烈な最期は大河ドラマ史に残る名場面として語り継がれるだろう。
かつての『秀吉』と重なる真の思い
すべてが嘘とも真ともつかぬ松永久秀であったが、これだけは真実の響きを持つ話をしていた。かつての主君、三好長慶と、大和(現・奈良県)への思いだ。
「あのお方だけは、儂を紛い物扱いしなかった。儂はあのお方こそ本物の父だと思っておる」
この台詞に、大河ドラマ『秀吉』(1996年)の秀吉(竹中直人)と信長(渡哲也)を連想して目頭が熱くなる。
猿、猿と蔑まれた秀吉を、信長だけは「猿ではない。人じゃ」と言った。
秀吉は信長を父とも神とも思い、不惜身命の忠心で仕えたのだ。
その思い出が、竹中直人の芝居で蘇った場面だ。
真の父と慕う人から任された、大和。
「奈良の都の、いにしえより続く、御仏と神々の威光に満ちた地」。
輝かしい大和への賛辞と財宝の地図とを、小一郎は久秀から受け取った。
「兄者! いつの日か、儂らで確かめよう」
少年のように新たな夢を抱き、まずは兄弟は次なる地へ向かう。
次回予告。
現代では天空の城と異名を持つ、竹田城を攻める。
「小寺官兵衛尉孝高(倉悠貴)にござりまする」
小寺官兵衛、のちの黒田官兵衛と竹中半兵衛。ふたりの天才。
新たな出会いと新たな戦場が、兄弟を待っている。
いざ、播磨へ!
21話が楽しみですね。
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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』
【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、菅田将暉、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正
※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
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主な参考文献:
ルイス・フロイス(著)/松田毅一・川崎桃太(翻訳)『完訳フロイス日本史・織田信長編 合本』中公文庫,1999年
谷口克弘(著)『織田信長合戦全録──桶狭間から本能寺まで』中公新書,2002年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『現代語訳 信長公記』新人物文庫, 2013年.
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025年
菊池浩之(著)『増補新版 豊臣家臣団の系図』角川新書.2025年