『本屋の人生』伊野尾宏之 著──“ただそこにある店”の69年の歩みに思うこと
文・宮本勝浩
日除けや冷え対策にも便利なシアーカーディガン
コットン100%で軽くて涼しい素材ながら、日差しや冷房の冷えからもしっかり守ってくれるカーディガン。これから暑くなる季節に持っておきたい、心強い1枚です。
私は毎晩寝る前に本を20~30分読む。本の世界に入ると、昼間の嫌な事やつらいことを忘れることができるし、すっと眠りにつくことができる。だから私の熟睡方法でもある。本が大好きだった幼少の頃から、この習慣は続いている。
今回手に取った伊野尾宏之さんの『本屋の人生』は、著者の父が材木店をやめて昭和32年に本屋を開店し、やがてその息子の宏之氏が後を継ぐ。だが孤軍奮闘も虚しく、書籍・雑誌文化の衰退で刀折れ、矢尽きて令和8年に閉店をするまでの話をまとめたものだ。
新聞、書籍、雑誌の販売量が激減してきていることは、マスコミで何度も取り上げられているが、自身の体験談として、その様子を生々しくまとめた本はめずらしいと思う。この本を読んで、時代の波に翻弄される本屋の経営者が、精神的には山あり谷ありでも、経営的にはずっと下りの谷ばかりで苦労されてきたことがよくわかる。特にコロナ期やスマホの台頭で、町の本屋の売上げの主体であった雑誌やコミック本が販売不振に陥った経緯などは、時代の移り変わりがよくわかり、同情を禁じ得なかった。
私が若い頃、車内で新聞、週刊誌、文庫本などを手にしていた人たちが、今やスマホに熱中している。私は書籍文化が衰えると、その国の文化は衰えると考えている。現在、私は大阪府内のある市の市民大学の責任者をしているが、開講式や修了式で数百人の成人の生徒を前に、アメリカの有名な音楽プロデューサーでギタリストのB.B.キングの名言を引用して、次のように話をしている。
「あなた方の得たお金や地位は、盗まれたり、失うことがありますが、あなた方が学んだ知識や技能は誰も盗むことはできません。だからこの市民大学でしっかり学んで下さい。それがあなたのこれからの人生を豊かにするのです。ですから本を読んで勉強して、また新しい技術を学んで身に付けて下さい」。
子どもの頃に本を読まず、大人になってから本を読むようになる人はほとんどいない。子どもの頃に本に親しむ習慣を身に付けさせることは本当に大切だと思う。著者は〈本屋をしていると、いろいろな出会いがあります〉と言う。いい人との出会い、そしていい本との出会い、それらの出会いが素晴らしい人生を創っていく。だが、それらもまた失われていくのだろうか。
私は高校、大学の時に市電の通る道を挟んで、自宅の向かい側にある本屋に入り浸っていた。おばあさんが親類の娘さんと二人でやっている、伊野尾さんの言う小さい〈ただそこにあるだけの店〉だった。そして、本が入荷した際は、唯一の男手として十数冊にくくられた本の開封や店への運び込みを手伝うこともあった。その時の“新本のにおい”が大好きだったと今、思い出す。家庭を持ってからは、子どもを連れてその本屋に行き、子どもの本を買っていた。その本屋はもう、数十年前に閉じられたままだ。
あの大好きな“新本のにおい”が懐かしい。
『クロワッサン』1164号より
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