『私たちは 意外に近いうちに 老いなくなる』吉森 保 著──次に目指すべきは「老化‒1」グランプリ!?
文・尾関高文
はたと気づくと、もう48歳である。聞くところによると、男性の48歳は人生でいちばん体の変化に心がついていかず、なかなか大変な年齢らしい。確かに自分ではまだまだ元気なつもりだが、明け方にトイレへ行く回数は増えてきたし、蚊に刺された痒みも三日は続く。先日、娘が携帯で好きなアーティストを目の近くで見せてきたが「なるほどね」と言って見えているふりもした。本当は何も見えていなかったし、いまだに彼らがどんな姿をしているのかはわからない。しかし老眼だとは1ミリも認めたくはない。
そんな、自分の老いを直視できない私が、つい手に取ってしまったのがこの本である。
まずタイトルがいい。この「近いうちに」という言葉が素晴らしい。老いを食い止める方法を今すぐに得られるかもしれない、という期待を抱かせてくれる。「いずれ老化が止まる」などという遠い未来の話は今の私にはどうでもいいのだ。
著者は、老化の仕組みを長年研究してきた生命科学者である。人はなぜ老いるのか、体の中では実際に何が起きているのかをわかりやすく説明してくれる。本書で繰り返し語られる「オートファジー」は、老化研究の最前線を象徴する仕組みとして紹介されている。老いとは単に時間が経った結果ではなく、細胞の中で行われている掃除や修理が追いつかなくなった状態だという考え方だ。体は本来古くなった部品や壊れかけたものを分解し、再利用することで自分を保っている。しかし年齢とともにその働きは弱まり、結果として老化が表に現れてくる。
興味深いのは、オートファジーは完全に失われるわけではなく、生活習慣によって働きを高められる可能性があるということだ。本書ではその一例として、阿波番茶に関する研究にも触れられている。発酵によって生まれる成分が、体内のオートファジーを活性化させる可能性があるという。これを見て、阿波番茶関連の株をすぐに検索してしまった欲深い人間は私だけではないだろう。
他にも老いに関連する最新情報が、本書では多数紹介されている。中でも一番印象に残ったのはアメリカの「XPRIZE」が主催する長寿研究の大会の存在だ。「老化をどこまで遅らせられるか」を競わせる「老化‒1」グランプリと言ってもいい大会である。賞金はなんと総額100億円以上。来年からはキングオブコントではなくこちらの「老化‒1」グランプリの上位を目指したいと強く思う。
また、質の良い睡眠をとることや紫外線をできるだけ避けることなど、老化対策としてよく聞く話もきちんと書かれている。正直、それ自体は目新しくない。しかし、それらがなぜ重要なのかを体の中の仕組みと結びつけて理解することで、老いを真正面から受け止められるようになった気がする。
老いを止める魔法はない。それでも、老いの正体を知ったことで、目を背けることはなくなった。まずはこれから、あの日聞けなかったアーティストの名前を娘に聞いてみようと思う。
『クロワッサン』1161号より
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