『家守綺譚(いえもりきたん)上・下』著者 近藤ようこさんインタビュー ──「できるだけ原作に忠実に描けたらいいな、と」
撮影・北尾 渉 文・中條裕子
「植物や小さな動物が好きなので、それを楽しみながら描きました」と、近藤ようこさん。
こちらは梨木香歩さんによる連作短編集を、近藤さんが漫画化したもの。綺譚とタイトルにあるとおり、日常にふと紛れ込んでくる不思議なモノや出来事が季節の移ろいとともに書かれた原作には、章ごとに植物の名前が冠されて物語のモチーフともなっている。
主人公は物書きとして生計を立てようとしている、綿貫征四郎という青年。亡くなった大学時代の親友である高堂の実家で、主人なき家の〈家守〉として暮らすことになるのだが……こちらがまた風情も趣もたっぷりで。家屋の入り口、玄関の上には梯子で登る納戸があり、土間にはかまどが設えられている、何とも懐かしげな風景なのだ。
「原作者の梨木さんから、『こういう家です』という見取り図のようなものをいただきました。古い家の半分は京都らしい町家の造りで、もう半分はちょっと近代的な建築になっているようで。あと、庭に琵琶湖から引いた疏水の池があるんです。おもしろいですよね」
原作にはっきりと書かれてはいないものの、ところどころに出てくる寺社や地名から、この家は琵琶湖にほど近い地域にあるのだとわかる。ようやく電気が通じてきたというくだりもあり、時代も明治ごろかと知れるのだ。そんな環境に住み始めた綿貫が遭遇するのは、思いもよらぬことばかり。庭のサルスベリの木に惚れられたり、池に河童が現れたり。隣人のおかみさんは親切ながら、妖(あやかし)たちの存在を当たり前のものとして受け入れている……。読み手もまたいつの間にか、そうした世界を受け入れているのが不思議なところ。
人ならざるものを描く難しさと、それらを想像する楽しさと
「すごく無理なく当たり前のように人間と人間でないものが交差してくるので、そこら辺の自然さを描きたいなと思いました」
そう近藤さんが語るように、人と人ならざるものが自然と共存して、心地よい世界を広げているのである。そこには亡くなったはずの高堂もまた、絶妙な間で折々現れてくる。けれど、さまざまな人ならざるものの姿を描くのに、苦労することもあったのでは?
「河童がいろんなイメージで出てくるので、どういうふうに描いたらいいのだろうというのはありました。ある時は女の子だし、ある時はサギと喧嘩しているモノだし。干からびて丸くなった河童もいたのですが、どう表現したらいいのかな、と。あとは、鯰(なまず)とか鮒(ふな)や鯉が船に乗ってやってくる、という場面。これは難しいなと思いつつも、『ああ描きたい!』という気持ちを持って描いていました」
ときに戸惑いながらも、想像をふくらませて楽しんでいた近藤さん。そうした人ならざるものたちの生き生きとした姿を、目で追えるのは漫画ならではの楽しさ。この世界にハマり込んでしまうと、もう戻ってきたくない、そんな気持ちにすらなってしまうのだ。
『クロワッサン』1152号より
広告