『世界自炊紀行』著者 山口祐加さんインタビュー ──「自炊の“こうあるべき”から楽になれたら」
撮影・中川正子 文・クロワッサン編集部
山口祐加さんは〈自炊料理家〉。料理初心者に買い物から調理、片づけまでの手順を教える〈自炊レッスン〉を中心に活動している。
「最初は出版社で働いていたのですが、食べ物は文字が読めなくても国籍も関係なく食べてもらえる。すごくユニバーサルで間口が広い仕事だということに気がついて」
料理を仕事にしようと決意、店で働いたりケータリングを手がけたりした。「この先どう絞っていこうかな、という時に、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんから『若くて先生っぽくならないところを逆手に取ったらいいのでは』と言われて」
気づきの多い仕事だという。
「いわゆる料理本の想定読者と、現実に生活する若い人の自炊事情がかけ離れていると思いました。
基本の調味料を知らない方がたくさんいる。砂糖という調味料は売っていないので、なぜないのか、何を選べばよいのかから始めます。そして私の教室はまず調味料を味見してもらうところから。お酢ってこんなに酸っぱいんだとか、みりんはこんなに甘いんだ、と皆さん驚く」。生徒は若い人ばかりでない。「最近増えているのは60代で一人暮らしの男性です」
そんな日本の自炊のリアルを知る山口さんが、世界の食卓を巡る旅に出た。台湾、タイ、フランス、ペルーなど全12カ国。外食文化の発達した国、男性優位思想の国、山岳民族……。その記録が今回の新刊だ。
あらためて発見したことは?
「日本人は栄養バランスや献立づくりの概念が真面目すぎると思いました。もちろん、国民全員に栄養の知識があるということが、健康寿命につながっていると思います。でも『今日はこの栄養素を摂っていない』とか、『子どもにこの栄養が足りない』でイライラするより、そういう日もあるよね、と思っていたほうが楽しそう」
食材の豊かさが食事の作り手を苦しめることも
たとえばキューバでは基本的に2通りのメニューしかないが、「みんなそれで困ってない」。スペインの家庭では、1週間は毎日違うものを食べるが、翌週も同じメニューの繰り返しだという。「安心感があるし、絶対美味しくできるし、買い物リストも決まるから楽だろうなと思いました」
山口さんを驚かせたのは、世界には料理がぬるくても気にかけず、また特に美味しく作らなくてもいいとさえ考える作り手の多いこと。
〈日本人は「おいしいもの」に対して興味がありすぎるのかも〉
「日本は旬がはっきりしていて、美味しいものが季節で変わる。それは豊かで素晴らしいことだけど、それをつらく思う人もいます。またいろんな国のレシピが日本語で読めて素材も楽に手に入る。それを楽しいと思える人と、何を選べばいいのか絶望する人を作ってしまっている」。いつも飽きずに美味しく食べないといけないという思い込みを見直すと楽になるのでは、という。「自分で自分に『これでOK』と言えるようになるとつらくないですよね」
『クロワッサン』1152号より
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