包容力のある、白の器さえあれば──料理家・内田真美さんとYAECAデザイナー・服部恭子さんの我が家の食卓に欠かせない器
撮影・西谷陽斗 文・熊坂麻美
「白の器」を紹介してくれたのは……
左 料理家・内田真美さん
幼いころから食に興味を持ち、料理家に。シンプルで美しく、おいしいレシピの著書多数。台湾やお茶文化にも造詣が深くガイドブックも人気。
右 YAECAデザイナー・服部恭子さん
2002年に〈YAECA〉を設立。シンプルで着る人の日常に寄り添う服やアクセサリー、暮らしの道具などを提案している。
究極にシンプルでいて、多彩な表情を持つ白の器を愛用している内田真美さんと服部恭子さん。白い器の魅力について語ってもらった。
「器に高低差をつけると、白一色でも食卓が華やかに(服部さん)」
内田 我が家は古い器が多いのですが、ほとんどが白。やっぱりお料理を一番引き立ててくれるのは白い器だと思います。色の器や柄のある器ももちろん素敵だけれど、盛り付けにある程度の経験値が必要な気がして。
服部 わかります。私も古い器が好きで、古九谷の色絵や古唐津を持っていますが、器の良さを生かしきれないというか。白い器は新旧を問わず、なんてことのない家庭料理を盛っても様になるので、つい手に取ってしまいます。
内田 白い器といっても、色味や質感、表情はさまざま。その奥深さをより実感したのは、韓国の現代作家、キム・サンインさんやイ・インファさんの白磁と出合ってからです。生活工芸を多く手がけるキムさんの器は、やわらかなフォルムがどんな料理にも寄り添ってくれ、アートピースを主とするインファさんの器は、透けるように薄く、繊細でいて華やか。友人たちにおふたりの器で食事をふるまうと、必ず「どちらの器?」と聞かれて。それで恭子さんにご相談して、ヤエカの「インクギャラリー」で最初に紹介してもらったのが、2019年の春でしたね。
服部 当時はまだ日本での知名度は高くなかったものの、あっという間に人気になりました。韓国の現代作家は伝統の白磁をベースにしながら、それぞれが独自性を表現していて、“白”のバリエーションが多彩ですよね。そして、高さのある器が多いから、白一色でも食卓に並べた時の高低差で、驚くほど華やかに。これも発見でした。
「日本の食卓にやさしく調和する韓国白磁もおすすめです(内田さん)」
内田 おふたりの器は、我が家でよく使っている染付の器とも相性が良く、その点も気に入っています。器は朝鮮半島から日本に入ってきたものだから、韓国白磁は日本の器と親和性が高いんです。どなたの食卓にも、きっと合うと思います。中皿(5)や銘々皿(6)は使わない日がないくらいの活躍ぶりですが、このオーバルの器(1)も、何をのせても決まる。いくつかのお料理をグラデーションになるように盛ると、高さがある分、とっても映えます。
服部 私は買ってきたキムチをどさっと(笑)。それでも絵になるのがこの器の力です。
内田 恭子さんのアンティークの器(3・4)は、クリームがかった色味とやわらかな質感が絶妙ですね。
服部 20年ほど前に古道具店で買った〈ウェッジウッド〉です。現行の量産品とは違う味わいや和洋どちらでもない中間的な佇まいに惹かれて。白い器を好きになるきっかけになった器です。
内田 こちらの丸重(8)も素敵ですね。薬味を入れたりするのかしら。
服部 上の浅い器に薬味などを入れて、下の深い器にごはんを入れてお茶漬けにしたり、一人ごはんのセットとして使っています。こちらのティーセット(9・10)は、すごくおしゃれ!
内田 陶磁器や生活道具も手がけたアートディレクターの渡邊かをるさんのデザインを復刻した新作なんです。渡邊さんらしいディテールまでこだわった美しさとサイズ感が気に入っています。長尾智子さんのプレート(11)は、リムに少し角度がついていて、食べ物がきゅっと引き立つ、さすがの塩梅。サイズ違いで揃えたいほど使いやすいですよ。
服部 求めやすいプロダクト品でこんなに気の利いたものがあるのが、うれしいですよね。高級な器を買っても使うのをためらってしまうようだと、もったいないですし。
内田 器は使ってこそ、ですよね。インファさんの器(2)も眺める用にはせず、デザートを盛るなどして楽しんでいます。値段や世間の価値は関係なく、自分が好きな器を日常的に使って食事する暮らしは、とても豊かだと改めて思いますね。
★1 ★5 ★6 ★7 キム・サンイン
韓国の安城を拠点にする作家。高台の高い祭器など、李朝白磁の造形を現代的に再構築した作品を多く手がける。ほんのり青みを帯びた雪白の色味も特徴的。「乾燥までしなければ食洗機にかけられる丈夫さも魅力。蓋の角度がポイントの蓋もの(7)は、薬味入れにも」(内田さん)
2 イ・インファ
夫のキム・ドクホさんとともに白土を用いた工芸品を制作。「白磁の透光性を研究しておられ、発光するような磁肌の美しさと静謐さが無二」(内田さん)
3 4 8 アンティーク
「ウェッジウッドの器はモダンさと半磁器の温かい質感が好き。丸重は古い砥部焼か平佐焼で、お店に並べるために仕入れたのに、気に入って自分用に(笑)。下の器は8cmほど高さがあるので麺ものにも」(服部さん)
★9 ★10 Kaoru
渡邊かをるさんがデザインした製品を手がける〈東屋〉と〈クラスカ〉が協働した新作。10月10日発売予定。
★11 SOUPs
料理家の長尾智子さんがプロデュース。「使いやすく、食べ物が美しく見えるように細部まで考えられた白い器が揃います」(内田さん)
※全て私物を撮影しています。価格のないものは現在販売されていません。
「マガジンハウス博」開催
来る2025年10月10日(金)~25日(土)、マガジンハウス創立80周年を記念し、東京・銀座のGinza Sony Parkで特別イベント「マガジンハウス博 “銀座から世界へ”」を開催します。地下1階に出店する『クロワッサンの店 マガジンハウス博 SPECIAL』では、「クロワッサンの店」で扱う人気商品のほか、雑誌クロワッサン『工夫のある台所と道具。』で紹介する台所道具の一部を特別に販売します。銀座で“暮らしの名品”に出会える機会をお見逃しなく。
マガジンハウス創立80周年記念イベント
「マガジンハウス博 “銀座から世界へ” 」
会期:2025年10月10日(金)~10月25日(土) ※ただし10月15日は休園日
会場:Ginza Sony Park
https://croissant-online.jp/life/256098/
https://croissant-online.jp/life/256938/
『クロワッサン』1151号より
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