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日本全国、手仕事の現場を訪ねて──山田工業所(神奈川県横浜市)

職人の手で生み出される美しい道具、連綿と受け継がれた技術を磨き上げる職人たち──使いやすさも美しさも兼ね備える、工夫に満ちた品の生まれる理由を知るために、日本で唯一、打出し式の中華鍋を作る職人がいる山田工業所(神奈川県横浜市)を訪ねました。

撮影・高橋マナミ 文・池田祐美子

日本で唯一の製法で完成する中華鍋

筒状に丸めた取っ手のつなぎ目、そして鍋本体と取っ手部分を溶接して補強をする作業工程。1階の工場から2階に場所を移し、ひとつひとつ職人が手作業で行う
筒状に丸めた取っ手のつなぎ目、そして鍋本体と取っ手部分を溶接して補強をする作業工程。1階の工場から2階に場所を移し、ひとつひとつ職人が手作業で行う
完成した、打出し片手鍋。直径40cmを超える業務用もあるが、写真は直径27cm、重さが約830gと家庭用のサイズ。鉄板を数千回叩くことで熱伝導率が高く油切れがよくなる
完成した、打出し片手鍋。直径40cmを超える業務用もあるが、写真は直径27cm、重さが約830gと家庭用のサイズ。鉄板を数千回叩くことで熱伝導率が高く油切れがよくなる
筒状に丸めた取っ手のつなぎ目、そして鍋本体と取っ手部分を溶接して補強をする作業工程。1階の工場から2階に場所を移し、ひとつひとつ職人が手作業で行う
完成した、打出し片手鍋。直径40cmを超える業務用もあるが、写真は直径27cm、重さが約830gと家庭用のサイズ。鉄板を数千回叩くことで熱伝導率が高く油切れがよくなる

1957年創業、神奈川県横浜市にある「山田工業所」は、鉄製の中華鍋やフライパンなどを手がけるメーカー。横浜・中華街をはじめ、都内の名だたるホテルや全国各地の中華料理店のシェフが、厚い信頼を寄せるのが、日本で唯一の技術を持つ“打出し式”製法で作る中華鍋だ。

戦後間もない頃、現社長の山田豊明さんの父が、ドラム缶の底板と上板を自作のハンマーで叩いて作った鉄鍋が原点。その後、山田工業所を設立し、2代目の豊明さん、3代目の憲治さんへと、一貫して打出し式の技術が受け継がれている。

「打出し式とは、鉄板を鍋の形に切り抜き、ハンマーで叩いて立体的な鍋に仕上げていくこと。創業当初は、ひとつひとつ手で叩いて製造していました。一般的な中華鍋は、鉄板をプレスして圧力をかけて一気に成形する、プレス式という製法で製造する。これに対して打出し式は、鉄板を数千回叩いて成形していく。専用の機械を開発してからは生産量が一気に増加しましたね」と、豊明さんは当時を振り返る。

1. 1枚の鉄板を加工する鍋のサイズに合わせてカットし、型抜きをする
1. 1枚の鉄板を加工する鍋のサイズに合わせてカットし、型抜きをする
2. 鍋底にあたる部分を、数千回、30分ほどかけて叩いて丸みをつける
2. 鍋底にあたる部分を、数千回、30分ほどかけて叩いて丸みをつける
3. 目で表面を確認しながら、鍋のへり、底、側面などをならして形を整える
3. 目で表面を確認しながら、鍋のへり、底、側面などをならして形を整える
4. 打出し鍋の断面。火に接する鍋底は薄く、側面は厚く調整する
4. 打出し鍋の断面。火に接する鍋底は薄く、側面は厚く調整する
5. 鍋の取っ手部分に、山田の“山マーク”と“打出し”の文字を刻印
5. 鍋の取っ手部分に、山田の“山マーク”と“打出し”の文字を刻印
6. 握りやすい形に取っ手を丸く成形し、手作業で溶接をして丈夫に仕上げる
6. 握りやすい形に取っ手を丸く成形し、手作業で溶接をして丈夫に仕上げる
7. 錆止め材を行きわたらせてから乾燥させる。錆止めをしない商品もある
7. 錆止め材を行きわたらせてから乾燥させる。錆止めをしない商品もある
8. 完成した片手中華鍋。直径24~45cmまで種類が豊富にある
8. 完成した片手中華鍋。直径24~45cmまで種類が豊富にある
1. 1枚の鉄板を加工する鍋のサイズに合わせてカットし、型抜きをする
2. 鍋底にあたる部分を、数千回、30分ほどかけて叩いて丸みをつける
3. 目で表面を確認しながら、鍋のへり、底、側面などをならして形を整える
4. 打出し鍋の断面。火に接する鍋底は薄く、側面は厚く調整する
5. 鍋の取っ手部分に、山田の“山マーク”と“打出し”の文字を刻印
6. 握りやすい形に取っ手を丸く成形し、手作業で溶接をして丈夫に仕上げる
7. 錆止め材を行きわたらせてから乾燥させる。錆止めをしない商品もある
8. 完成した片手中華鍋。直径24~45cmまで種類が豊富にある

機械を導入してはいるが、ハンマーが鉄板に当たる位置や角度など、鍋のサイズに合わせてその都度、機械を細かく調整するのは職人の手仕事。鍋を作る工程の中でこの作業を担うのは、職人10名の内2名のみ(うち1名は、3代目の憲治さん)。鍋の肝であり、それだけ経験と技術を要する作業だ。

「叩いて成形していくことで、まず強度が増して丈夫になります。表面に細かい凹凸ができることで油がよくなじんで浸透し、熱伝導率もよくなる。叩くことで鉄がのびて軽くなり、扱いやすくもなります」

2代目で現社長の豊明さん(右)と、打出しを担う3代目の憲治さん(左)
2代目で現社長の豊明さん(右)と、打出しを担う3代目の憲治さん(左)

山田工業所の商品ラインナップには、プロ仕様の大きな両手鍋だけではなく、家庭のキッチンで使いやすい片手鍋や小さいサイズのフライパンも揃えている。気になるお手入れは?

「調理後は、鍋が熱いうちに洗えば洗剤なしでも油を落とせます。もちろん、洗剤で洗っても問題はありません。強火にかけて水分をしっかりと飛ばし、使い始めのうちは表面に油をうすくのばし、吊るして保管がおすすめです」

山田工業所
神奈川県横浜市金沢区福浦1-3-29 TEL:045-781-5857 家庭向けには片手鍋、木製取っ手の片手鍋、フライパン、両手鍋などがある。工場での直接販売はしていないため、「職人.com」(https://www.shokunin.com/)ほか販売店での注文を。

日本全国、手仕事の現場を訪ねて──山田工業所(神奈川県横浜市)

『クロワッサン』1151号より

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